僕の色を取り戻す冒険
細波ゆらり
僕の色を取り戻す冒険の始まり(プロローグ)
傷つけたことが不当なものであることは、終始承知していた。
彼女が努力して学園の首席にいることはわかっているし、それを私が表だっていじめることで他の人が彼女に危害を加えないようにしているのも、全て計画のうちだ。
ああけれど、いつ私の世界は色を失ってしまったのだろう。
彼女をいじめることで、周囲から嘲笑われるようになってから?
あるいは学園に入るずっと前から、私の世界に色なんてものはなかったのかもしれない。
いじめることも、公爵令嬢として結婚することも、全て社会の望むままに生きてきた。
婚約者の王太子は言っていた。
卒業後に聖女の名を授かる予定の彼女と結婚するために、学園では愚かに過ごせと。
私の心なんてものは、とうの昔に消し去られた。
そっか、私の世界に色がないのは、心がないからか。
そっか、……そっか。
息を吐く。
冷えた空気に、暖かいかどうかもわからない白色の煙が生まれる。
今さら心なんてものはどうでもいい。
ただ一つ、色づく世界を見てみたかった。
それすらも、きっと、叶わないのだろう。
そんな風に諦めていた。
公爵家に女子が産まれたら、成人と共に王太子妃となることは、生まれる前から既に約束されていた。
誰も信じて疑わなかった。多産の家系の母が、いずれ女子を産むであろうと。
僕が、生まれて一週間後、双子の妹は亡くなった。また、母も、産後の肥立が悪かったことに加え、生まれたばかりの赤ん坊の死が与えた精神的な苦痛に耐えきれず、後を追うように亡くなった。
残されたのは、妹の名でなされた王家との婚約証明書と、長男の僕と父だった。
最愛の妻を亡くした悲しみに押しつぶされた父は、14年間もの間、僕を妹のステファニーとして育てた。
王太子のジェームズは、僕の親友だ。
二年前、ジェームズが僕の身体が女性のそれではないと気づいてから、二人でいくつものシナリオを考えた。
ジェームズは僕に、
「絶対に、きみの人生を取り戻させてみせる。」
と約束した。
僕も、
「必ず、取り戻してみせる。」
と答えた。
僕は、いま、住み慣れた公爵家のタウンハウスの裏門から、旅立とうとしている。
小さな鞄には、身の回りのものと、公爵令嬢時代に父親から与えられたいくつかの宝石を詰めて。
ジェームズと僕の企みが、今、ここから始まる。
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