第22話 エツィオとユズキ

「やっぱりバン博士を説得するのは無理そうだ」


 エツィオはそう言う。


「……そう…」


 そう寂しそうな顔を浮かべるユズキ。


 エツィオとユズキでグラシアの過ごす部屋に集まって話し合っていた。

 少し離れたところでつまらなさそうに三角座りしているグラシア。ユズキは視線を部屋の端に置かれているオーディオに向けた。


「私たちでルティ、街の人をを助けないと」


 そう強く言い切ったユズキ。


「でも、どうする?」


 そうエツィオが言った瞬間、無言になった。

 無言になるしかない、思いつくならもう行動しているはずで。思いつかないから、バン博士を説得しようとしたのだ。


すぐにエツィオが申し訳なさそうに、


「すまん。調べるしかないよな。方法が思いつくまで」


 しかし時間は残されていない。軍も調査に乗り出したと情報が入ってきたのだ。

 軍がどういう動きをするか分からない。でも一つ分かるのは、軍はルティを助けようとするわけがない。

 危険物とみなして、間違いなく処分するだろう。


「そうだね」


 そう言うしかないユズキ。それしか言えない現状に悔しいのか唇をかむ。


 そんなユズキから視線を外したエツィオ。そのまま前を見つめ続け、ぽつりと言った。


「今回さ、どうして人間を吸収し始めたんだろうな……」


 ユズキにはエツィオの言いたいことは分かっていた。ルティが吸収されて、そこからだ。今回の事件にはルティの意志が介入している。それは、バン博士やトニー博士もそう睨んでいる。口ぶりから察することが出来る。


「分かんないよ」


 首を横に振るユズキ。


「でも、苦しんでいたから。それが原因かも。本人に聞くしかないよね」


 そうして資料に目を通す。


「すごいな。ユズキは」


 エツィオはぽつりと言って


「俺はそんな自信を持って進めないよ。今回でルティがこんなことをして。本当に助けるべきか正直迷ってる。ルティから聞いた通り本当にユズキは強いんだな」


 ユズキの資料をめくる手が止まる。


「それだけはないよ」


 優しい口調で答えたユズキ。


「大変なんだよ。ルティの前で強がるのは。でも、私が強く振舞わないと、多分ルティやばいから。本当はルティとほとんど同じで……。でも、私にはこの子がいるから何とか」


 ここまで弱音を吐くユズキは初めてでエツィオは少し面食らって。声に生々しさがあったからこそ余計に。


「大変なんだな」


 そう返すしかなかった。


「……そうだね。すごい大変だなって感じるときはあるね。……まぁ、だからさ、ルティの考えていることは分からないけど、気持ちはすごい分かる。本当に苦しくて。だから、ルティを放っておけない」


 それにさ、とユズキは続けた。


「グラシアちゃんが可哀そうだよ」


「そうだな。助け出さないとな。グラシアのためにも」


 エツィオの声に力強さが戻った。


 そんな時だった。


 ドアがノックされた。

 エツィオがドアを開くとそこにいたのは、シーナだった。


「……シーナ」


「バン博士とトニー博士がおよびです。どうやら軍と関係があるみたいで」


 いつも通りの様子のシーナ。エツィオはその態度に不服そうな表情を浮かべると、


「お前はどうしてそっちにつくんだよ」


 しかし、シーナは何の反応を見せることなく、


「さぁ行きましょう」


 そう言ってつかつかと歩き始めた。

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