生命の樹
プラ
プロローグ、第1話 誕生
人の思想が植物の進化に大きな影響を与えた。その結果、植物の進化によって生まれる特徴は、人間にとって有益なものばかりとなった。
まるで植物が人間のために進化したのだ。
すべてはガベト族の誕生から始まった。
人の突然変異だった。特異な性質を持つ細胞を持って生まれた。
その特異な細胞によって、ガベト族は大地と接触している間という制限があるが、エネルギーを放出するようになったのだ。
詳細に話すと、もともと大地エネルギーという大地との接触によって得られるエネルギーがあった。
ガベト族の細胞は、そのエネルギーを増幅し、放出するのだ。
つまり、彼らは大地と接触している間は、エネルギー源となれる。
その細胞は、人にエネルギー源という側面を与えた。
ここで特筆すべき点がある。
ガベト族が増幅し、放出したことで、元々微量だった大地エネルギーだったが、太陽が地球に降りそそぐことで発生する太陽エネルギー量を有に上回ったのだ。
それまで、生命活動に太陽エネルギーを利用して生きていた植物。
しかし、徐々に大地エネルギーを利用する種が誕生し始めた。
その変化は、すぐに生態系に甚大な影響を与え始める。
ガベト族が放出する大地エネルギー量は太陽エネルギー量を凌駕する。
それが、如実に現れたのだ。大地エネルギーを利用する種が過去地球上で例を見ないほどの繁栄スピードを見せた。
瞬く間に、大地エネルギーを利用する種が大繁殖した。
その余波によって、生命活動に太陽エネルギーを利用する種のほとんどは絶滅した。
数億年かけて形成された地上の生態系はものの100年近くで、見る影もなくなり。
ほとんどが生命活動に大地エネルギーを利用する種になった。
しかし、そうなると、始まるのが大地エネルギーを利用する種同士の生存競争。
どんどんと激化していった。
どれほど、ガベト族が放出するエネルギーを受けれるか、つまりどれほどガベト族の近くに入れるかが、生存競争の勝敗を分ける。
そうすると、自然と進化の方向性は定まってくる。
ガベト族にとって有益な特徴を持てば、ガベト族の近くにいることができる。
いかにガベト族にとって有益な進化をしたかで種の繁栄が決められた。
その環境が数千年続いたのだ。
その結果、植物は人の思想が大きく反映され、どの種も特異な進化を遂げていた。
そして、その進化の中で現れた植物「生命の樹」。
たしかに、人間のために進化した。しかし、人には扱えなかった。
人間のために生まれた生命体は、人間のあり方そのものを変貌させつつあった。
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『生命の樹』の親木にひょうたん型の実が数十個成っている。その実の中で生まれる、人の小指程度の大きさの植物、『生命の樹』。
後に聞いた話だが、その数十なっている実の中の一つで生まれた『生命の樹』は突然変異を起こしていたらしい。
その突然変異とは、通常の『生命の樹』よりも変質がしやすいという性質で。
だからこそ、人の細胞にも変質しやすかった。
その実の中では、僕を含め、限りなく人体の構造に近い生命体が3体生まれていた。
ドボドボッ
成熟した『生命の樹』達の重みに耐えきれなくなった実は裂け、僕たち含めた『生命の樹』達は一斉に地面に落ちる。
実の中から、外界へと投げ出された。
つまりこの世に生を受けた。
と同時につんざくような痛みと死を連想させるほどの苦しみに襲われた。
頭の先から足の先まで痛みと苦しみで満たされた。動けない、息も出来ない、声も出せない。
生まれて間もなく、死はもう側まで近づいていて。
気を回す余裕などなかったが、おそらく、僕以外のほか二個体も同じような状況だっただろう。
それもその筈だ。人体の構造は複雑だ。
限りなく人体に近い生命体なだけで、完成はされていない。体の中にはいくつもの不具合があって。
体にかかる重力ですら激痛をもたらすほどだった。
そんな時だった。薄れた意識の中、甲高い声が聞こえた気がした。
次の瞬間、僕の右足に圧迫感を感じ、そのまま体全体にさらなる負荷がかかった。
真っ暗だった視界が一転し、ぼやけた視界に肌色が広がる。同時に右足にかかる負荷と頭にかかる負荷が強くなった。
どうやら、僕は逆さまに持ち上げられているようで。足に茶色の何かが巻き付いているのがうっすらと見えた。
目の前にある肌色は動いているようで、ぼやけた視界ながらどうやら人の顔だと気づく。
何者かは甲高い声でキャッキャッと喜んでいる。そして、僕の体を触った。
……なんだこれ。
触れた個所から体に流れ込んでくる何か。
さっきまで知覚のすべてを支配していた激痛が少しずつ和らいでいく。
少しして、目の前がぼやけないほど程度には痛みが和らいだ僕。
そこでようやく目の前にいる人を認識した。その顔の持ち主は赤ん坊だった。
目の前に赤ん坊が興味津々というような表情をしていて、なぜか興奮している様子で両腕を上下に激しく振っている。
その後ろでは、赤ん坊の体が倒れないように様々な種類の木々が赤ん坊の背中を支えていた。
見ると、僕はその後ろに控える木々の一本が僕の足を掴み、釣り上げられている状態だ。
苦しみに悶え、何も言わずうめき続ける僕が不思議なのか、赤ん坊は興味津々とした様子で僕の頬をぺちぺちと叩く。
和らいだとはいえ、少し気を抜けば意識が飛んでいきそうなほどの痛みに常にさらされている。
だが、それにも関わらず僕はその赤ん坊から目を離せなかった。
言葉に出来ない何かがその赤ん坊にはあって。
そんな時、赤ん坊の後ろに控えていた木々の一本が動いた。
なぜか、その木は目の前の赤ん坊が操っていると確信出来て。
二本の枝が『生命の樹』で覆いつくされている地面、それも僕がさっきまでいた辺りから何かを探り出し、そして引き上げた。
それは、僕と一緒の実の中にいた限りなく人体に近い構造を持つ生命体、二個体。
両方とも生き絶え絶えで、口から血がだらだらと垂れて、息も満足にできている様子もなく。命の灯が消える寸前だというのが一目で分かる。
グシュッ
酷い音が当たりに響き渡る。辺りに飛び散った肉片と、血。
持ち上げていた枝がそのまま二個体を絞め潰した。
それは、一瞬のことだった。
僕は何が起こったかすら分からなくて。
そして、その枝はゆっくり時間をかけて、その先を僕に向けた。
その枝の先がぼやけた。
ヒュンッ
風を切る音が聞こえた。
「がはっ」
コンマ数後後、腹から、脳天を突くような鋭い痛みが僕を襲った。さっきとは種類の違う鋭利な痛み。
痛い、痛い、痛い、痛い、あぁぁぁぁぁぁぁぁぁきゃぁぁぁあぁ。
背骨が折れるほどにそり返る体、首の骨が折れるほど頭を振り回して。体が自分の物じゃないようにビクンビクンと震える。
大きく吸い込もうとした息、しかし、喉の奥から一気に押し寄せてくる血がそれを阻む。そして、吐き出すように血が口からあふれ出た。
かすれた意識の中、自分の腹向かってまっすぐ伸びる枝が目に入って。
そして、僕の意識が飛んだ。
ーーそのまま永遠にだと思っていた。
しかし、僕は意識を取り戻した。
僕はまだ体を持ち上げられていて。
何だこの感覚……。
その感覚というのがただ痛みがないという単純な事実に気づくのにしばらく時間を要した。
……どうして?
そして、更に時間を要した結果、僕は自ら気づいた。完璧な人間の体を得たことに。
さっきまで痛みを感じていた場所に何かがある感じ。
足りなかった場所にピースがハマった感じが体にある。
すぐに気づいた。それは、あの二個体の体の一部だということに。
あの枝はあの2個体を握り潰し、必要な部分を取り出し、僕の体に埋めたのだ。
この世に生を受け、ようやくクリアになった意識。
その意識の中で初めて味わった感情。
それは畏怖だった。
それは、赤ん坊に触れた時、痛みが消えたことも、残りの二個体が簡単に殺されたことも、その死を生贄に自分の命を助けてもらったこともそうだった。
しかし、一番の理由はその気まぐれさだ。
僕はたまたま選ばれただけだった。
実からこの世に投げ出されたとき、少しでも違う場所にいるだけでも自分が殺される立場になっていた。
なんならこの赤ん坊が命を救おうと思って行動していたのか……。
全ては赤ん坊のただの気まぐれ。
今から考えると、赤ん坊だから気まぐれなのは当たり前だ。しかし、この時の僕が知ってるわけもなく。
命を握られている。その事実が僕の脳に焼き付いたのだ。
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