第51話 気づけば考えている
あ~つまんないなぁ~。
さっきから先生が簡単なことを遠回しに長々と語っている姿はただでさえつまらないのに、今日は見る気すら起こらない。
さっきから特に意味もなくぼんやりと外を眺めてる。徐々に太陽が下りてきて、赤みを帯びてきた。きれいな夕日だ。
そういえば、修一にも現実世界の夕日綺麗だよっていう話したことあったな~。
その名前が出てきてまた胸がきりっと痛んだ。
できるだけ考えないようにしていたのに……。些細なきっかけから修一の名前が浮かぶ。
一度浮かぶと心にぽっかりと穴が空いた虚しさと罪悪感がこみ上げてきて……。
まだまだ言いたいこともあって、一緒に居たくて……。
でも、この前のことで修一には嫌われたかもしれないから……。
もう修一はせいせいしているのかもしれない。もう二度と会えなくて済むと……。
そうであればいいのにと頭では思うのに……心の底では悲しんで欲しいと思う、自分勝手だな~~私。
今でも鮮明によみがえる修一の感情の抜け落ちた表情が私の胸をさらに締め付けてくる。
もう何度も味わっているのに、また瞳の裏あたりに力が入ってまた目頭が熱くなって……。
もう、これからどうすればいいのかな……。
頭の中はどこかずっと修一とどう話そうかとか仲直りできるかなどばかり考えていて……。それが出来なくなって、自分がまず何をすればいいのかすら分からない。
そんな時だった。不意にそよ風が髪をなでた。
あれっ? 私は違和感を覚える。窓とは逆方向から風が吹いてきた気がした。
ふいっと振り返る。そこにはいつもと同じ光景、生徒たちがタブレットに何か書き込んでいる。扉も閉まっている。
ぼんやりしてたから気のせいかな。それとも違う窓から入ってきた風が反射したとか……?
そんなことを思い、また視線を外に戻そうとした時だった。視界の端でさっきまで消えていたタブレットが点いていることに気づく。
何だろうと視線を下に落とし……そして、ハッと小さく息を吞んだ。
『ごめん。本当にありがとう』
タブレットには見慣れた文字で一文そう書かれてあった。私はそのメッセージからしばらくの間、目を離せなかった。
断言できた。その文字は昔ずっと傍らで眺めていた、修一の文字だ。
「……修一…」
声があふれ出ていた。胸が一杯になって。涙があふれた。言葉の背景まで分からない。でも、救われた気がした。
指先が自分で分かるほど震えている。
さっきまで聞こえてこなかった心臓の音がはっきりと聞き取れる。
私はゆっくりと腕を風が吹いてきた方向に腕を伸ばす…………。
………………腕はむなしく空を切った。
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