第42話 混乱する三浦
その時の俺はもう断れないと思って、未だ保身のためにどう上手く桃谷と付き合うかを模索していた。
何とか誤魔化せないかと現実逃避をしていたのだ。
「お前何やってんだよ」
そう屋上に上ってきた修一が真面目な顔して尋ねてくる。恐らく桃谷から話を聞いたのだろう。
現実逃避に入りかけていた俺を一気に現実に戻して……。
さっきの桃谷との会話が蘇ってくる。嬉しそうに教室に戻っていく桃谷の姿が蘇ってくる。
ぁぁあぁあぁ、どうしてこんなことに……?
俺が……。俺が……。どうして言えなかったんだ……。駄目だ。分からない。何も分からない。何も分かりたくない。
CAREが悪いんだ。不意にその言葉が思いついた。
…………そうだよこれがなければ……。
それはもう罪悪感でつぶれそうになっていた俺の心に最も耳障りのいい言葉だった。そうだ。CAREが全ての元凶だ。こいつがなければ……。こいつが……こいつのせいで……。
CAREに怒りが湧いた。
俺はCAREの側面を握って思いっきり引っこ抜いた。
そのまま地面に叩きつけて……。それ目掛けて踏みつけて……何度も踏みつけて……もう太ももまで衝撃で鈍い痛みが走るほど踏みつけて……。
ふっと我に返った。
何やってるんだ俺は……。
全部が自分悪いのに……。全部他のものに頼って、耐えきれなくなった罪悪感さえCAREに頼って。
自分自身に心底絶望した。こんなやつ、どうせ生きていてても幸せにならないだろ。
もうすべてがどうでもよくなった。
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三浦は急に一切の動きを止めた。まるで像になったように。
嫌な気がした。僕はすぐに声をかけた。
「……………三浦?」
その途端、三浦の体にザザザと様々な単色の線が走った。
その後すぐに、色の反転を起こして、三浦の体の至る所がまるで荒いモザイクが走ったかのようにノイズが走って……次の瞬間、目の前から三浦の姿が消えた。
「えっ?」
少しの間、僕は間呆然としていて……。
「三浦……?」
向ける先のない声をかけるも帰ってくるわけもなく。
あたりを見渡す。いつも通りの屋上。誰もいない僕だけが屋上に一人いて。
まずい状況だ……そう直感した。とほとんど同じタイミングで八木さんから電話がかかってきて……。
慌ててその電話をとると、
「何があった?」
そう焦った様子の八木さん。向こうからは荒い息と走る足音が聞こえる。まずい状況だという実感が生々しいものになって。
僕が知る限りのこと、今目の前にあったことを慌てて説明すると、
「分かった。すまないありがとう」
そう電話を切る流れになって、ここで何も知らないままいるなんて無理な話だ。
「何があったんですか?」
慌てて尋ねると、八木さんは少し間があって、
「……三浦がCAREを破壊してどこかへ歩いてる状況だ。今、トロンに追わせているから万が一のことはないはずなんだが……。もしものために三浦の下へ向かっている最中だ」
そう言っている奥で車に乗り込む音が聞こえて。三浦への心配が溢れてくる。同時に昨日、聞く耳すら持たなかったことへの後ろめたさも湧いてきた。
「……修一、お前はどうする?」
そんなタイミングだった。僕の頭の中を読んだように、ただそれだけポツリと八木さんは言う。
もう何もしたくないのに……。考えたくない。
でも、三浦への心配は一層強くなる……。
頭の中でぐるぐるいろんな考えが現れては消えて。
後ろめたさも強くなってくる。これで三浦に万が一あれば。このままどうなるか……そう考えると……。
少なくともこのまま知らなったように平然と授業に戻れないことは確かだ。
「…………八木さん……僕も行きます」
「……分かった。近くを通る。その時合流しよう」
八木さんの言葉の端にはどこか安心したようなものを感じた。
その後、僕と八木さんは学校の近くで合流した。
そこで、三浦はCAREを装着していないので、拡張現実には映らないようになっていることもあり、拡張現実でも三浦の姿が見えるように僕のCAREにシステムをインストールし、終わると八木さんはすぐに車を走らせた。
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