第4話 憂鬱な学校生活
まぁ、どうでもいい。好かれたいわけでもない。僕はため息をつき、三浦と桃谷の話を邪魔しないよう黙っておくことにした。この中に割り込んでいけるほど、二人とは距離感が近くない。とはいえ仲が悪いわけでもない。
休み時間になると目の前で話す二人の他にも後二人の男女で集まって話している。休日になると偶に遊びにも行ったりご飯を食べたりする。だが、それは僕がたまたまグループのメンバーに入っているのだからであってそれ以上の理由はない。
上手くグループの端っこの方で引っかかっているだけで、そこでぬるい安心に浸かっているのが僕だ。
個々で特に仲のよい人もいない、個人で連絡を交わすこともない。グループでたまに発言するくらい。目立つことはしないし、素の自分も出さない。それは僕が受け入れられずこのグループからのけ者にされるかもしれないから。
だから、今も邪魔しないように振舞っている。
そこまでしてグループに居座ろうとする理由は、単純だ。僕はまだ一人で過ごせるほど心が強くないというだけ。一人だと気楽だが、それ以上に心細い。自分だけが一人でいれる自信がない。周りの目が気になる。本当にそれだけで、この行動に意味を見いだせてない。
一体僕は何をしてるんだろう。時折、発作的に全部が馬鹿らしくなる時がある。今がまさにそれだ。僕はまたため息を吐いた。
しばらくすると、桃谷と満足するまで話したのか、ようやく三浦が話しかけてくる。
「修一も顔を変えて見ろよ。ずっとそのままだろ。俺が教えてやろうか?」
まるで僕以外と話していなかったような態度で続きを話し出す。
こちらの気も知らないで……。そう心の中で毒つく、しかし、何も答えなかったら心象が悪いだろうと仕方なく答える。
「やってるんだけどね……、なかなか難しくて……」
結局どの顔をしていてもあの単色的な笑顔を浮かべるだけ。なのに、わざわざ顔を作ろうとする気が起きない。だから、僕は素顔を拡張現実でも使っている。だが顔を作ることが当たり前な時代に素顔だということが知られると浮いてしまう。僕はどこかの雑誌の真似をしたと嘘をついていた。
三浦はふ~んと受け流し、
「まぁ、修一はめんどくさがりだからな~」
勝手に自己解決して高らかに笑う。ただでさえ気落ちしてるのに、その一言で余計に気が沈む。しっかりと考えを持っているのに、それを面倒くさいという言葉で片づけられたことに。
「はははは」沈んだ気分を無理に高め僕は無理やり笑う。
「また今度教えてやるから一緒にやろーぜ」
三浦は相も変わらず軽い調子で答え、満足気に鼻歌をしながら自分の席へ戻って行った。
その後姿を見ながら、どうせ僕が不機嫌になったことですら分かっていないのだろうなと不意に思った。
だが、同時に仕方ないと自分自身で言い聞かせる。
向こうは軽い気持ちで言っている程度だ。それに昔、面倒だったので何も言い返さず、上手い言い訳だと受け入れたのだ。自業自得だ。仕方ない。
そう悶々と自分にいいきかせている内に怒りは薄まり、残ったものは虚脱感だった。
「はぁ……面倒くさいな……全部……」
無意識に声が出た。
どうせ皆、CAREで作られた薄っぺらい表面の嘘の部分だけを見てその人の本性を知ることなんてできない。
孤独だ。誰とも分かり合えないまま、CAREで作った表面だけを見て死んでいってしまう。
僕の気持ちが伝わらないと同様に三浦の気持ちは僕に分かるわけがないのだ。他人を見ようとしても意味がない。
あぁ……孤独感が募っていく……。
「以上で授業を終わります」
先生のその言葉と共に、授業の終了を知らせるチャイムが鳴る。僕は一気に憂鬱になった。その理由は三浦たちの所に行かないといけないからだ。今までの休憩時間だと次の授業まで時間がなく、大体の人は自分の席に居座る。だが、この時間はそうはいかない。この短時間でさえ、教室の中では目まぐるしく人の移動が繰り返され、至る所で人の群れができる。そうして作った群れの中で皆が単色的な笑いを浮かべ合っている。人が集まるとよりその気持ち悪さが際立つので、憂鬱になる。
しかし、僕も今からそんな中に自ら身を置かなければならない。皆誰か友達と食べていている状況の中で、一人でご飯を食べれるほど神経は図太くない。とはいえ、このまま三浦たちの元へ行っても、ぬるい安心に浸かることができるが、気苦労が絶えないのは目に見えている。
些細な抵抗だが、僕はわざとゆっくり次の授業の準備など、誰も僕のことなど気にも留めていないのは分かっているが、自然な動きで時間を稼ぐそれでも時間など潰せるはずもなく、五分ほどしか時間は稼げなかった。このまま動きたくないという思いが込み上げてくる。このまま一人で気楽に過ごしたい。それを腹の奥まで飲み込んで抑え込む。
僕は立ち上がり、できるだけ時間をかけて皆が集まる三浦の席に向かった。
「おい~す」
三浦が僕に声をかけてくる、同時に皆が口々に僕に声をかけてくる。話を止めて皆が僕を見ていることに一瞬胸がドキッとした。なんせ皆、単色的な笑みが真っすぐに僕に向けていたから。
「……おいっす」
何とかその言葉を喉から絞り出す。すると、皆すぐに興味を失ったように視線を外し、また話しだした。僕はホッと溜息をつく。ひとまず大丈夫だった。
僕はこのグループで最も口うるさく話す三浦から丁度一人分離れた場所に陣取る。これで少しは話を振られにくくなるだろう。後はできるだけ話を振られないことを祈りながら、目立たず弁当を食べるだけだ。
このグループに居座るだけでいいから。話すのは嫌だ。話そうとすると相手の単色的な笑顔がいやでも目がつき、その嘘くさい表情が薄気味悪く見える。だから、グループの隅で小さくなっているのが一番楽だ。
だが余りにも会話に参加しないと、奇妙な奴だと思われる。だから興味のない話にも頷きや相槌をうつ。曖昧に頷いたり、同意しておけば、あとはCAREが上手い具合に修正してくれる。
あとはこの息苦しさにだけ耐えておけばいい。
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