オレサマオマエ、マルカジリ
ダンジョン攻略の種類は大きく分けて二種類。
ダンジョンの実態調査をする調査部門と、ダンジョンに巣くっているモンスターを倒す討伐部門。
それらの仕事を割り振るのがダンジョン管理組合という所。私も加入してます。クラリスもね。
王家の威光には負けるけど権力は結構大きいものがあって、ここで許可が下りないとダンジョンのあれこれが出来ません。田んぼ植えたり鉱山を掘ったり階層を拡張したりとか。もちろん探索も攻略も出来ない。
そんな管理組合から、「九九・九九九パーセントの確率で当たる階層予想」で最深部三五階とはじき出された「ゆうがおダンジョン」の実態調査を命じられました。現在は三〇階まで調査が進んでおります。
調査が進んでいないのは三一階層から敵が強くなるんですよね。二本角の鬼、オーガとか出てきます。
「そんな所に挑んで大丈夫かニャァ……」
「討伐命令じゃないし積極的に交戦しなければ大丈夫だよ。探索もおおよそ半分は終わってるし。鉱山階層らしいよ。オーガの集落も発見されてる」
「ますます不安だニャ」
きつねのニャー助の不安をよそに準備開始。
使い捨ての通常グレネードを一〇個。手元に弾が戻ってくる魔導グレネードは三個。
通常グレネードは爆発して破片が飛び散るやつ。
魔導グレネードは強い光と音で敵を一瞬スタンさせるフラッシュバングレネードと、ものすごい煙が出てきて逃走や挟撃を助ける煙幕グレネード。
二個一個ですね。
傷薬はエアポンプ注入タイプの瞬間回復薬を五個。
腕に刺すタイプですがエアポンプ注入式なので痛くない。戦闘中に使っても針が折れたりしない。そもそも針がないしね。
魔法科学の産物。
ここまでは経費で落とせた。あとは個人持ち込みで魔法閃光弾や炸裂弾などを多少。魔導銃でも撃てる旧式を探したよ。使い捨てだった。残念、弾薬は手に入らなかったね。
「最後に自動マッピング地図と五倍双眼鏡を手にしたら準備はオッケー。重装備だけどオーガがでるからね」
「双眼鏡が五倍しかないというのが貧乏を感じさせるニャ」
「あるやつ使うしかない。きばっていこー!」
さてと、探索です。三〇階層まではエレベーターが整備されてあるのですんなりと到着。三一階層へと侵入していきます。
「そこそこ明るいという情報は本当だね。本当にそこそこしか明るくない」
「あんまり火を使うのは得策ではないかもしれないニャ。オーガに発見されるニャ」
マッピング済みの部分をまずは探索して、オーガの集落を確認します。
三〇体はいるかな。でかいなー一般人の二倍から三倍程度のオーガがうろうろしてる。殴られたらそれまでかも。
武装はしていないけどカンカン音はするから金属を扱っている模様。戦闘部隊は剣とか使ってきそうだ。
「最初に発見した探索隊であろう人の首が入り口に飾ってあるから野蛮だね。見つからないように動こう」
「稲作をしているみたいだから、狩猟と称して森の中、オーガが徘徊している確率は少なそうだニャ」
そそくさと集落を見渡せる場所から離れて、マッピングされていない所を埋めていきます。
倒す必要はないからね。それは討伐部隊のお仕事。
ここは鉱山階層ということも相まって地形が山がち。目の前でタツキがへばってます。体力ないなー。
「す、すこし休もうニャ。体力がないといざというときに逃げられないニャ!」
「ちょっと前に休んだじゃーん。こんなんじゃいつまで経っても探索が終わらないよー」
「さ、三〇分だけ……ニャ」
泣くような目線で懇願するタツキ。
「しょうがないなー」
少し休むことにしました。円形に展開し危険な物体を感知してアラームを鳴らす警戒魔法を魔導銃から放っておけば奇襲も遭遇戦もない。
一発くらいならタツキが休んでる間に補充も出来るしね。
「しかしナツカちゃんは凄い体力の持ち主だニャ。僕だって精霊の端くれ、人以上の体力を持っているんだけどニャア……」
汗を拭きながら休み休みタツキがそう言う。
「うーん、体内のマナが何か関係しているのかもしれないとは言われてるんだよね。昔から体力や運動神経、動体視力などはずば抜けてたよ。それに加えて細かい作業も出来るしね」
魔法生命科学の研究によると、魔力が外に放出できない分、内部で何らかの魔法を構築しているのではないか、もしくは魔力がマナとなり肉体に侵出して自然強化されているのではないか、という感じらしいんだよね。
私を解体しないとわからないので本当のところは謎なんだけどさ。いやいや、死にたくないわ!
魔力を放出できれば十万年に一人の神の子といわれていただけに、体内の莫大な魔素量や魔力は私に不思議な作用を及ぼしているみたいなのだ。
「よっし、それじゃ探索の続きをしていこうか。休憩は十分でしょ」
「鬼ニャ、鬼畜ニャ。まだ休み足りないニャ」
「鬼も鬼畜もオーガでしょ」
警戒魔法を消し去り痕跡を残さないようにしてその場を立ち去ります。
森というか藪というか、そんなところをマッピングしていきますよ。マッピングの地図は結構広い範囲を自動でマッピングしてくれるので綺麗に動かなくても良いのが嬉しい所。
そんな中、大きな栗の木があったので近寄ることに。
うひょー、イガグリが落ちてる落ちてる。三一階層の栗だし食べたら相当美味しいだろうな。拾って集めよーっと。
「ご主人あんまりグレネードポーチに栗を入れすぎるといざというときグレネード持てなくなっちゃうニャよ」
「大丈夫大丈夫そもそも接敵を想定してないからね。経費で落としたやつだし。あ、このイガグリも大きいなー」
「「ガシッ」」
にっこり顔でイガグリをとろうとすると、太い腕が同時に伸びてきてイガグリを掴みました。
にっこり顔で顔を上げるとそこには……。
「オーガじゃねえか!」
「ぐわわごんがで!」
まじでなんの準備もしていません。遭遇戦です。
とりあえず素早く後方へ飛び退きます。
オーガは後方へは飛ばずに私を追いかけるようにチャージしてきました。
ヤバいな、一瞬相手の方が遅かったからちょっとは離れてるけど距離取れなかった。
そのままの勢いでオーガのぶん殴り!
さすがはオーガ、リーチが長い。
私のシールドリングが自動発動してシールドが展開される。
ただしオーガの破壊力は凄く、一撃でシールドは破壊されてしまった。
一撃を防いだから間が出来たけど、どうすれば。魔導銃か。ブラスト魔法を装填してあるけど、爆発魔法を撃ったら近くのオーガに位置がバレてしまうかもしれない。音がしない道具がないか? なにかないか?
「そうだ、これを……!」
私は近くに落ちていたイガグリを手に取ると、思い切りオーガに投げつけた!
私はプロ野球選手速球派の四倍以上の速度で投げられる。新幹線より速いしサラマンダーより速ーい。
そのイガグリは見事オーガの首筋に命中し、深く棘を差し込んだ。
トンチな手法と棘の痛みで一瞬声が出ずに行動が止まるオーガ。
その間にブラスト弾をぬき、ショットガン魔法の内の一つ「スラッグ弾」を装填してオーガに撃ち込む。これは魔力で押し出すので無音なのだ。昔は狩りでよく使われていたらしい。今は魔法でちょちょいのちょいだけどね、けっ。
スラッグ弾は首元に直撃し、頭が揺れるオーガ。脳味噌揺れて昏倒しないかな。
等と思っていると再チャージして思い切り殴ってきた。なんて強靱さだ!
魔導銃を撃ったあとなので対応が遅れ、思い切り殴られた。家一軒位の距離は吹っ飛んだと思う。私も強靱(だし良い防具もある)なので死ぬほどの威力はなかったが、脳味噌が揺れたのは私の方だ。
薄くなる意識の中スラッグ弾を再度装填する。くっそ、手が思い通りに動かない。
オーガは猛スピードでこちらに向かってくる。よいぞ、それでよい。
私の魔導銃はピストルくらいの大きさなので、スラッグ弾を撃ってもまともに飛ばないのだ。普通は砲身が長い魔導猟銃とかで撃つからね。
だから近寄ってくれないと当たらない。でもタイミングを間違えると吹っ飛ばされて今度こそ失神、つまり死が待っている。
「こいよベネット、銃身が焼けるまで撃ち続けてやる!」
「うがぁぁぁ!!」
オーガが大きく振りかぶる。
私の魔導銃からスラッグ弾が放たれる。
勝利の女神が微笑んだのは……。
ドンッ
オーガのパンチは私の右頬をかすめただけで空振りに終わった。スラッグ弾が直前に頭をぶち抜いていたのだ。
「ご主人様ー!」
「タツキー!」
ひしと抱きしめ合う二人。正直めっちゃ怖かった。
クラリスだったらこういうのロラとかがやっていたからさ、この怖さわからなかったよ。
「傷薬撃って休憩するニャ!」
「傷薬は撃つけど休憩はしない。こっちにオーガがいるっておかしくない?集落からはずいぶんと離れているよ? はぐれオーガだったのかな? 服装はしっかりしているし考えにくいんだけど」
「集落とは言わないまでも集団で生活しているってことかニャ? そうしたらここにいると戻ってこないからって応援が来るニャ。すぐ移動しないと駄目ダニャ」
というわけで傷薬だけ使って、打撲の痛みは残るものの移動することに。遭遇したときオーガがいた方向にね。
時間が過ぎて夕方くらいになったら数名のオーガが大きな栗の木がある方に向かっていったのを確認したよ。
「集落があるね、これは。場所を確認したら戻ろう。先に討伐部隊が処理しないと探索なんて出来ないよ」
というわけで、死んだオーガがでたという一報を持ち帰るために、先に走っていったオーガの後をつけて集落まで案内して貰いました。急いでいるからニンニン隠れるのも容易だった。
「こっちは一〇〇名以上いるね。規模も施設も、何もかもが大きい。オーガの長もいるかもしれない」
「怖いニャ」
「タツキは私が守る」
「普通は精霊が人を守るものなんだけどニャ」
集落をマッピングした所で今回の仕事は終わり。
三〇階層にあるエレベーターで地上へと帰っていったのでありました。
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