魔法的に無能
「お前さんは確か魔力関連は軒並み世界一だったはずだろ? 外部へ放出できないだけで。魔力の元である
そう、私ことナツカ・シアリは魔法力テストで全て歴代トップ、世界一を獲得しているのだ。ただ、外部に放出できない、つまり魔法が使えない。
だからあまり意味がないんだけどね。
誰にでも運用できる補充器具が存在するから、魔導具に魔力や魔素を補充することは出来るんだよ。
「娼婦とかそんなのやりませんよー。なにかないんですか、組合員さん」
「魔法が使えないのでは、この魔法が高度に発達した世界の中でまともな職に就くことは出来ないな。そんなに体が小さいんじゃあポーターとして働くのも無理だろうしな。出るところは出てるんだが」
組合員さんが突き放すように言います。
言っていることは正しいですね。無詠唱等の上級技術が一般市民の間でも主流の今、魔導具に頼ってでしか魔法が操れない私に住む所はないです。普通なら貧民街で暮らすような存在です。
「私には魔導銃がありますからまだ魔法が使えます。弾薬も残ってるし簡易補充器具もあるから再装填も出来ます。なにかないですかぁ? この都市に張られている防護魔法陣の魔素補充も、変換器具さえあれば一気に出来ますよ! なんたって世界一の魔素量保持者なんですから!」
組合員さんは考え込むようにしながら言葉を述べます。
「うーん、魔法陣への魔素補充なんて誰でも直接出来るからお金にならんぞ。魔法陣用の変換器具なんて何年も前に管理放棄されたしな」
「そげなー殺生なー」
「そうだなぁ……寺院建設に使う魔法の木がいくつか必要なんだ。それを運搬してきてくれないか。車は出す、魔導具仕様の古い車がある」
「わっかりました! お仕事の詳細を下さい! わーい、やったー!」
というわけで車を森に走らせています。魔素燃焼式内燃機関のトラック。魔素タンクへの補充は私ならほぼ無限に行えるので、部品が壊れなければいくらでも進めるぜヒャッホイ。
おんぼろだけど。サスペンションが酷くてガッタンガタンと揺れまくる。
「まー、走るよりは圧倒的に楽よねー。お尻痛くなっちゃうけど、さ」
ガッタンゴットン揺れるよ走るよガッタンゴットン。
そんな感じで魔法の木が植えられている所まで来たんだけど……。
「なぁんか、不穏な空気を感じるね。伐採が行われていない」
車から降りて工場長の家を訪ねました。でかでかと工場長と書かれているのですっごくわかりやすい。
正式な場でのノックは三回。
コンコンコンコン
四回やっちった。国王級へのノックやんけ。
そして中から現れたのはゲッソリした筋肉質の男性でした。
私より背が高い。ずるい。まあ私が小さいんだけどさ。
「なんダニ、またお役人かダニ。今回はちっこくて白銀の髪の毛で蒼い目、白い肌の女性ダニか。いろっぺえけど、どんな人に頼まれても今魔法の木は伐採できないって言ってるダニよ」
「あ、ただのダンジョン管理組合員なんですけどー。組合から魔法の木をもってこいって言われてまして」
「組合もお役人も変わらんダニ! 魔法の木を伐採したければ自分で伐採しろってんダニ!」
そして扉をバタン! と閉じる。
なんで伐採できないか理由を教えてもらえずに話が終わってしまいました。
他の家も訪ねたけど、みんなゲッソリしていてまともに話が出来ませんでした。
「なんでみんなゲッソリしているんだろう。物を食べている形跡はあったから食料がない訳じゃあないし」
精神的にやつれている? なんで?
「慎重に行動する方が良いけどここにいても誰も答えてくれない。魔導銃に戦闘用の弾薬を装填して魔法の木が生えている方面へ行ってみよう」
魔法の木の方へ行ってみると、特段変な所はありませんでした。木を切る道具が投げ出しのまま放置されている以外は。木を切る道具があるってことはチップソーの魔法使ってないのでしょうか。
魔法の木は魔法が当たると変質するから魔法使えないんだっけ? まあいいや。切っちまおう。
「まずは弾薬にチップソーの魔法を装填するか。補充器具で弾丸に魔法を込めて……と」
補充器具に弾薬をセット。補充道具を介して私の魔力そして扱う魔法を弾丸に伝える。弾丸に魔法が充填されていく。手持ちの弾薬が少ないから過負荷充填はしないでおこう。
「チップソー魔法弾薬、装填」
中折れ式の魔導銃に弾薬を挿入するような形で装填する。魔導銃の弾薬は大きいから拳銃程度の大きさだと一発入るのがやっとなのだ。状況に合わせて弾薬を変更しやすいしこれはこれで理にかなってたりする。
「照準合わせよし。いけぇ!」
狙いを定めてトリガーを引くと、巨大なチップソーがものすごい回転で出現し前方に発射されました。
これが魔導銃での魔法の出し方。
弾薬に魔法を込めてトリガーを引けば魔法がでる。弾丸に込める魔法を変えればでる魔法も変わる。
チップソーの魔法、ちょっと強すぎたかな。まあいいや。弾薬が壊れるほどの量は補充してない。
魔法の木は簡単に切断されて、こちらに倒れてきたあああああああああ!!
慌てて回避する私。
そうだった、木を切るときは切り込みを入れて倒す方向をある程度固定するんだった。あっぶねー。
「まあいっか、私死んでないし。魔法の木は……うーん、普通の木になってるかな。ちょっとこれじゃあ使えないねえ。魔法じゃ駄目か。魔導具ならどうなんだろ。同じか。木こり道具で切り倒すかないんですかねえ」
そんなことをつぶやいていると後方から気配が。
素早くブラスト魔法をセットして後方に振り返り魔導銃を向ける!
そこにいたのは……
「あんれまぁ、狐の妖精さん?」
そう、そこには半擬人化した狐の妖精さんが佇んでいたのだ!
きゃーかわいいー! 狐萌え狐萌え! かわいいあんよ、ちいさなおてて。もっふもふの身長並にあるしっぽ。
「うおおめっずらしー! 狐のしっぽとおみみ、もふもふのおててがかわいいねぇ。私の半分いかない身長も素敵要素」
妖精さんがここまで大きくなるには相当の実力が必要だから、このかわいいきつねちゃんもここら辺の長老くらいのことはしているのだろう。
「興奮してる所申し訳ないのですが、勇者様、邪悪な魔法の木を切り倒してくださいニャ。勇者様がなぜ邪悪な魔法の木の影響を受けてないのはわからないけど、それなら切り倒すことも可能ですニャ」
「語尾がニャなのは加点要素ですねえ!」
彼――タツキというらしい――が言うには、数週間前に邪悪な魔法の木が出現して、ここら一帯の精神力を吸い上げているらしいです。おかげでみんな力が出ないし、まともな判断が出来なくなっているとのこと。
私が影響を受けていないのは私の魔力なんでしょう。なんたって世界一ですからね。ちょっとやそっとの魔法的能力なんて効かないんですよね。破壊魔法は別だけど、ね。
「邪悪な魔法を切り倒したら木こりの皆さんも元気に木を切ってくれるかな?」
「ここに住む精霊達が集結してお願いするニャ。木こりは精霊を偉大なものとしてあがめ称えているから必ず手伝ってくれるはずニャ」
というわけで邪悪な魔法の木討伐が決まったのでありました。
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