051 暦

 ナランハ村での朝、朝食はマイホームで手に入るもので済ませることにした。フレッサをでてかれこれ五日目か。サトン村に着くまでに一泊、サトン村で一泊、ナランハ村に着くまでに二泊、そしてナランハ村で一泊。そういえばマリーはフレッサからルーセイドまで往復したら半月かかるなんてことを言っていたが、そもそも今は何月何日なんだろうか。スマホを見られるわけでもいかないし、そういった感覚が抜けてしまっている気がする。

 そもそも暦という概念がどれだけ定着しているのだろうか。地球でだってしばらくはユリウス暦とグレゴリオ暦はたまた太陰暦と太陽暦みたいに暦が混在していたり移行したりするくらいだしなぁ。


「わりぃマリー、セフィリア、今日って何日だっけ?」


 あくまでさらっと聞いてみよう。首を傾げられたら取り敢えずごまかそう。


「宿の入口に暦表が貼ってあったはずだけど……確か水上月の二十五日だったはず」


 みなかみづき……? 水無月なら六月の異称として聞き馴染みがあるが、初耳だな。二人により詳しく聞くと、少なくともこの大陸では光、土、水、火、風、闇の六属性をさらに上月と下月に分けて十二ヵ月を一年としているらしい。一ヵ月は三十日で五年に一度、闇下月の後に時の月という三十日間を過ごすらしい。うるう年みたいなものだろうか。

 なお、少なくともこの大陸でというのは、この大陸にも複数の国があって、さらに海外のこととなると情報が入ってこないからという理由らしい。ちなみに今年はツクヨミ歴で997年とのこと。


「ツクヨミ歴って……なんでそういうんだっけ」


 あくまで知っている体で聞く。この二人相手に実は異世界から来ましたといつかは告げねばならないとは思っているが、少なくとも今じゃないはず。セフィリアが答える前にマリーが答えてくれた。商人の家系では計算と暦が大事らしい。


「千年近く前に時の女神の巫女と呼ばれたすっごい女性がいたんですけど、その方は時間の概念を明らかにして太陽と月の動きから時計やツクヨミ歴を考案されたんです。砂時計や日時計、水時計なんかは全てその時代に技術が確立されたものなんです」


 なるほど……きっと転生者なのだろう。天文的な知識をもとから豊富に持っていたのか、はたまたチートとして手に入れたのか、それは分からないけど、きっと第二の人生をこの世界で謳歌したのだろう。


「てことは誕生日ってちゃんとわかるのか?」

「えぇと、そうですね。私は風下月の十五日です。でもまぁ、細かくその日って感じじゃなくてその月になったら年齢を一つ増やしてましたね。時の月生まれの人はほとんど光上月になったら一歳増やしてました」

「エルフ族は長生きだから、新年に一律で加算していたはずよ」


 人はところによりって感じだけど、エルフ族はほぼほぼ数え年の文化なんだな。日本で過ごしていた頃は出不精でそのうえ地元の文化にすら興味がなかったが、こうして異世界にまで来るとちょっとした違いや文化に興味がわく。旅が楽しいと感じられるのは、やっぱりこの二人と、だからなんだろうな。


「さぁて、今日も旅するぞー」


 まずはマリーの武器を受け取りに行くところからだな。

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