035 俺とマリーとセフィリア
「あなたたち、付き合ってるんじゃないの?」
「「……えっ?」」
「いやいや待て待て。なんだよ藪から棒に」
思わずマリーと同時に驚いてしまった。
「だってマリーったら下ぎ――」
「セフィリアさん待って、待ってくださーい!!」
慌ててマリーがセフィリアの口をふさぐ。…………お、俺は一体どういう対応をしたらいいんだ。
俺は無言でマリーを見つめる。
「私とレックスさんの間ではもろもろの話は決着してるんですから」
すぐにセフィリアを解放したが、マリーがブンブン首を振りながら必死で否定する。その様子が何とも可愛らしく思えた。
「マリー、もしかして振られたの? だったらレックス、話は変わってくるわよ。こんなに可愛い子を嫁にもらわないなんて、どういう了見?」
突如としてセフィリアの鏃が俺に向いてしまった。さすが弓使い、狙いが鋭い。狙いというか、視線なのだが。はてさて、どう答えたものか……どこまで、言ってしまおうか。正直、セフィリア相手に嘘とかごまかしが通用するとは思えない。ええい、ぶっちゃけてしまえ。
「マリーに好意がないと言えば嘘になるし、その……だ、抱きたいとも思っている」
「ほぉん」
「ひゃっ……!」
ここ数日、魔物との戦闘で生存本能を搔き立てられているからか、正直なところムラムラしてしまう瞬間があった。マイホームの中だと防具を外して気が緩むから……隙だらけで目のやり場に困るシーンもあったしな。
「だがその、なんだ。マリーとも話が済んでいるが、もしマリーが身重になったとして、マリーの目的は誰が成し遂げるんだって話だ」
「そりゃあ、当然レックスでしょ? 旦那としてそれくらい当たり前じゃないの?」
義理の両親になるんだから、当然のことだとは思っている。が、そうであるならばそれはそれで順序ってものがあるというか。両親を解放した上で、娘さんを~みたいな流れの方が正統というか……。
「まぁ、そうなるな。目的を果たすまではマリーが妊娠でもしようものなら、俺が面倒を見るしかない。だが、仮に俺が死んでしまったら?」
「それは……」
「俺が死ぬのはまだいい。問題はマリーが死んだ場合だ。出産が命がけなのは俺でもわかるさ。まぁ、出産だけじゃないよな。冒険者としての毎日は命がけだ。もし俺がいなくなっても、マリーには生きていて欲しいと思う。つまり俺がマリーを抱くということは、マリーを俺の人生に巻き込むということだ。だから、軽はずみな行動はできない」
俺がマリーに対して抱いている感情は、おそらく恋愛感情ではない。可愛いとは思うし、スケベ心が湧く時もある。でも年の差とか、生まれた世界が違うとか、そういった部分が頭の片隅に残って気になってしまう。いつか異世界人だって伝えなくてはならない場面はきっとくる。決定的な価値観の違いを目の当たりにすることもあるだろう。その時、俺とマリーは乗り越えられるだろうか。
「レックスさんの気持ちはわかりました。その上で、私はレックスさんをお慕いしています」
マリーが真剣な眼差しで俺を見る。その瞳からは決意のようなものを感じた。
「ありがとう、その気持ちは素直に嬉しい」
「妹みたいに思っているからそういう対象には見られないっていうわけじゃないのね。なるほど……ねぇ、マリー。人間の治める国には一夫多妻を認める国もあったわよね?」
ここにきてセフィリアがさらなる爆弾を放り込むのだが。どういうつもりだ、なんて聞くほど鈍くはない。というか、この流れから考えたらだれでもわかるというか……。
「ハーフエルフって妊娠しづらいから頑張ってね、レックス」
「おいおい……」
セフィリアの言葉に頭を抱える。
「セフィリアさん!! それ以上はダメです! レックスさんが困っちゃいます」
「そうね、これ以上はレックスの迷惑になりそうだからやめておきましょう」
「はぁ……まぁ、わかってくれたのならいいんだが」
終始ニヤニヤしていたことから、冗談半分というか、八割がた冗談だろう。……だといいのだが。100%の冗談ではなさそうな辺り、セフィリアの底が見えない感じがあるんだよなぁ。セフィリアに煽られてマリーが突飛な行動に出なければいいのだろうけれど。
なにはともあれ難所を越えたなと思った俺に、ふと真顔になったセフィリアが真面目な話を切りだした。
「ハーフエルフとして言わせてもらうけど、人間の生涯は短いわ。私は母がエルフで父が人間だった。私を産んでたった二十年で父は死んだわ。寿命よ。母はまだまだ若い。エルフとして百歳の母は人間で言えば二十代後半ってところね。母というより姉みたいな感じよ。父母で老化の速度が違うことは、子供ながら種族の違いっていうものを見せつけられたわ。言ってしまえば、人はいつまでも美しくはいられない。レックス、その辺りも分かった上でマリーを待たせるの?」
「…………」
どうやら難所はまだ続くようだ。セフィリア……どういうつもりなんだ。
「いいんですよセフィリアさん。私が勝手に待つだけだし、それに今のレックスさんは私の心の支えなんです。そうだレックスさん、私の両親に会いに行きませんか?」
「そんな簡単に会いに行けるのか?」
「はい。フレッサの奴隷店にいるはずです。売れてしまっていなければ、ですが」
「そうだな。じゃあ、明日行こう。どっちみち武器屋にも行くしな」
なんとか強引ではあるが、俺とマリーの関係についての話は打ち切ることができた。セフィリアがどういうつもりで話を始めたのか分からないけれど、なかなか二人きりになるタイミングがないから、問いただすタイミングはなかなか来ないんだろうなぁ……。
せっかく、一人部屋を手に入れたってのに、初日から安眠とはいかないようだ。まったく……。
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