004 マリーの事情
「えっと、実は……さっきも言ったように私は駆け出しで、この森での討伐依頼に誘ってくれたパーティの人と一緒に来たんです。でも、そのパーティの人たち、私の身体目当てだったみたいで……あわや貞操の危機って時にゴブリンの群れが襲ってきて、男の人たちは戦い始めたんですけど、私は逃げ出しちゃいました」
流石は異世界、なんていうか性と暴力が支配しているって感じだ。そこまで話したマリーが少しモジモジし始める。
「あの……えっと、今、お金とか渡せる物とか全然持ってなくて……助けてもらったお礼はその……身体で、でしょうか? や、やはり男性は下心なしに人助けなんて……しませんよね」
「ち、違う!! 別に、そういうのを求めて助けたわけじゃないから」
「で、でも……他にお礼のしようがなくて。れ、レックスさんになら……私! は、初めてですけど、頑張りますから……」
まさか異世界の女の子はグイグイ来る系なのか。そしたら俺、ろくに会話もできないぞ。マリーが初めてなら、それはそれでいいかもしれないし……女の子に迫られるなんてこれまで無縁だったし、この先だってあるか分からないけど……流石に十代の女の子と淫行はダメだ。こっちの世界じゃどうか分からないけど、俺の中の倫理観がダメだって言っている。
「私の容姿じゃお礼にならないですよね……。すみません……。でも、その……レックスさんは命の恩人なので……あの、貴方が望む時は、私を使ってください」
「いや、マリーの容姿が気に入らないとかじゃないから! むしろ、マリーは可愛いから! あ、いやそうじゃなくて……なんだ、その……そもそもマリーは何歳? この辺の成人って何歳から?」
やっぱり異世界だし、地球と価値観が違うんだろうなぁ……。生きるか死ぬかの世界に身をおくと、生存本能が働いて性欲が増す、みたいなそういうことなんだろうか。
「か、可愛いですか? 良かった……。えっと、私は十六歳でつい最近成人したばかりです。冒険者になれるのも十六歳からですよ」
なるほど……じゃあ当然俺は冒険者になれるってわけか。
「それで、マリーはどうして冒険者に?」
「あまり聞いてて気分のいい話じゃないですよ」
「まぁ、言える範囲でいいさ」
「優しいですね、レックスさん。誰かに……聞いて欲しかったのかもしれません。うちは……もともとうちは商会だったんです。でも小さい商会だったので、他の商会に潰されちゃって……。ひょっとしたら奴隷になっていたかもしれません。でも、冒険者として登録を受けていれば奴隷にはなりません。だから、両親からあんたは冒険者になるために家出したから、この商会とは、う、無関係だ、って……だから、私……冒険者として、ん、成功して、頑張って、両親と……生まれ育った商会を、かいもどぢたいんです……」
涙ながらに語る彼女に、俺はかける言葉を見つけられなかった。きっと色々あったのだろう。それに、彼女は多少大人っぽく見えるとはいえまだ十六歳だ。そんな子が親のためにと危険に身を投じているのだ。なんだか俺まで泣きそうになってしまう。この子は……俺と一緒だ。”家”を取り戻すために戦っている。そんな彼女に、俺は何をしてやれるだろうか。
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