第18話 少女は一人、夜に微笑む

***


 高宮をデートに誘った夜。

 私は、ベットの上で枕を抱えて転がっていた。


「あー……やっぱり、いい」


 誰に向けたわけでもない呟きが、部屋の中に消えていく。


 私が嫌いな顔を彼に見せてしまった。

 いつもの地味な恰好じゃなくて、昔みたいに私の一番を。


 整った容姿だからっていいことばかりじゃなくて、嫌なことの方が多かった。


 そんな私の見た目を、他の誰よりも私自身が嫌っていた。


「でも、高宮は違うんだろうな……」


 彼は言った。

 『どっちでもお前は分かりづらくて、面倒なんだから』って。

 彼にとって、「河野こうのみお」は優れた容姿じゃなくて、そういう人間なんだって。

 

 それがうれしかった。


「それに、あのとき……」


 彼の顔はとても優しくて、声もどうしようもないくらいに心がこもっていた気がする。

 そんなことを気になっている相手にされてしまえば、普通の女子ならイチコロだ。


「だからって、いきなりだったかな」


 気持ちがぶわーって溢れて、帰ろうとしている彼をつい引き留めてしまった。

 引き留めてから、何を言おうか悩んだ。


 やっぱ、嘘。

 本当は何を言うか無意識で決めていたんだと思う。


「デート、明後日か……」


 今日は木曜日で、明日学校に行けば、その次は土曜日。

 すぐにその日はやってくる。


「ふふっ……」


 その部屋の中には、どこか楽し気で控えめな少女の笑い声が小さく響いていた。


 …………デートの予定が全く決まっていないことに気づくまでは。


***

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る