第9話 夜はただ過ぎていく
「スタンプ送りすぎ笑」
手早く河野への返信を済ませると、スマホを机に置く。
風呂から上がって自分の部屋に戻ると、スマホが何度もバイブレーションしており、何事かと思った。
振動の正体は、河野からのスタンプ連打だった。
『言ったでしょ、私友達いないから』
再三思い出されるのは、何度か聞いた彼女の発言。
これまでずっと友達がいなかったことではないだろうが、久しく友人と呼べる存在がいないことが想像できる。
俺も彼女の友達かどうかは怪しい所だが、一応メッセージアプリ上『友だち』になった。
これは勝手な想像だが、彼女は家族以外の『友だち』が増えたことに舞い上がったのでなかろうか。
そんな勝手な想像をして、俺の頬はわずかに綻ぶ。
そして、そんな俺を見ている視線が一つ。
「……変だよな。心底面倒だと思ってるってのに」
視線は言葉を返さない。
俺はただ少女を指先で小突く。
「分かってる……これも味付けだろ?」
またしても言葉は返ってこない。
それもそのはず。
「ふっ……まぁ、何を言っても届かないか」
視線の主である少女は、写真立ての奥でいつもと変わらない笑みを浮かべているだけなのだから。
***
「――――うっ」
私は勢い良くベッドへと倒れこむ。
ちょうどよく顔に枕が当たり、痛くなかった。
「いやー……送りすぎだよね、スタンプ」
そんな呟きと共に、スマホの画面を見つめる。
先ほど高宮から送られてきたメッセージ。
『スタンプ送りすぎ笑』
普段使わないけど、カワイイから集めてた動物スタンプたち。
使いどころはここしかない、だけどどの子を使ってあげよう。
そんな悩みは、無駄だと思い、勢いだけで全部のよろしく系のスタンプを彼のもとに送り出した。
「後悔してるかも、ちょっとだけ……」
後悔。
それは私を形成する全て。
そこにプラスの感情なんてなかった。
――だけど、今日だけは違った。
「家族以外で、初めての『友だち』だから嬉しくなりすぎてるだけ、多分」
今だけは、私自身の心がそんな後悔をニヤニヤの源にしている。
きっと素に戻った時には、嫌な思いをするだろう。
「……だけど、高宮で良かった」
普通に接してくれる。
友達ではないかもしれないけど、恋人でもないかもしれないけど。
それでも、私にとっては他人よりは大事な人。
嫌いじゃないけど、恋愛的な好きではない。
気になるけど、気になるだけ。
「あーあ……怖いけど、ちょっと楽しみ」
――明日が。
高宮と会うのが。
そんな感情になれたのは、きっと何も知らない子供だった日以来。
私はそのことにも気づかぬまま、ただ彼とのメッセージ画面を見つめていた。
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