第15話 バーピー①
食事を済ませて身支度を整えると、ぼさぼさ髪のスノウ隊長が
「人を借りに行ってくる」
と言った。それをバッシュが慌てて呼び止める。
「誰の所に行くんだよ?」
「四番隊のとこさ」
スノウはそう言い残してずんずん歩いて隊舎を出ていった。
「おい、まずい。これは面倒なことになるぞ。人手が欲しいから、おっさんも元気があるならついてきてくれ」
バッシュが焦った顔をしながら彼を追う。私も彼のあとをついていった。
「四番隊ってのはどんな部隊なんだ?」
私は声を潜めてバッシュに尋ねる。
「ぶかんの部隊さ」
「ぶかん?」
「そう。武官だよ。毎日肉体的な鍛錬を積み、躊躇なく敵を引き裂く『老』の刃さ。四番隊は最も古い武官部隊の一つだ。武官の中では比較的穏健派だが、文官部隊と比べれば凶暴な奴らの集まりだ。あんたも彼らを刺激しないように気を付けるんだ。」
地下の四番隊隊舎の入り口に差し掛かる頃、私たちはスノウに追いついた。番兵に傲然とスノウが胸を張り、
「パルミエを出せ」
と言った。番兵は後ろを振り向き、扉の内側の兵にスノウの来訪を伝える。私たちが扉の前で暫く待っていると、巨漢が現れた。
「よォ、スノウちゃぁん」
異相である。
「……バーピー。」
スノウがバーピーと呼んだその男の唇は、上左部が裂けている。唇のピンクがその裂けめに沿って分布しているところを見るとその症状は明らかに先天的なものだ……私は再び奇妙なデジャブを感じる。口唇裂。私は確かにこの症状を診たことがある。連鎖的に古い記憶がずるずると引き出されてくる。薄緑のカーテン越しに差し込む柔らかい光。硬い回転椅子の座面、照らされてピンクに輝く口腔粘膜、裂けた唇、縦方向に割れている口蓋の骨。私はどうして自分がこの症状に対する知識を持っているのか分からないでいる。
バーピーは悪相である。頑丈そうな頭蓋骨に搭載された顔のパーツは全てが粗大に出来ている。太い眉、一本戦を引いたように細い目、大きな鼻、それから石でも噛み砕けるほどに頑丈そうな顎、それらがぶっとい首の上に乗っかっている。
バーピーは軽蔑しきった口ぶりでこう言った。
「今日はお供のお人形さんはいないのか?」
スノウの首筋に血が上っていくのが見えた。私は彼の怒りが一気に沸点に達するのを感じ、後ろ側から羽交い絞め取り押さえようとする。しかしあっという間にスノウは走り出す。
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