君となら
「はー、たのしかったー!!」
沢田さんはベンチに腰掛けると満足そうにつぶやく
「良かった・・・」
僕は時計台の文字盤を見て別れの時間が近づいてくるのを感じて、何故か胸が締め付けられ絞り出すように答える
「ねぇ・・・岸くん・・・」
沢田さんはおもむろに僕の名前を呼ぶ
「何、沢田さん?」
「岸くんってさ・・・自分を演じてるでしょ?」
「え・・・?」
いきなりそんな事を言われた僕は衝撃のあまり、沈黙する
「やっぱりか・・・実はね・・・私もそうなんだ」
「え?」
僕は沢田さんの顔を見つめる
「小学校の頃ね・・・私、いじめられてたのその時の私は暗くて、人と話すのが苦手だったの・・・」
沢田さんは真顔で続ける
「本当に辛くて・・・学校に行くのが嫌になってたんだけど、その頃の私は誰にも頼ることが出来なかった・・・正直このまま人生に幕を下ろそうとも思った」
沢田さんは淡々と続ける
「でもできなかった・・・生きたいって・・・生きていたいって思いが強かった・・・」
沢田さんの顔を見るが感情が読み取れない
「それで、中学校くらいからかな・・・自分を演じるようになったのは、暗い自分が嫌だから明るくて話すのが得意な沢田 美羽を作って演じるようになった」
沢田さんの表情が少しだけ明るくなる
「でもね・・・」
沢田さんの顔が曇る
「だんだん自分がわからなくなっちゃってね・・・でも、今更役を演じるのを辞めることも出来なくて・・・・・やめたらそこにはなにもないように感じて・・・」
沢田さんの声が少し震えている
「そんなときに岸くん君に出会った・・・岸くんに自分が重なったような気がして・・・」
「沢田さん・・・」
「何?」
沢田さんが僕の方を向く
「確かに、僕は自分を演じてる・・・そしてそれは今もこれからも変わらない・・・」
「そう・・・」
沢田さんの表情に諦めの色が入る
「でも・・・沢田さんがその考えを変えてくれた・・・」
「え・・・?」
「沢田さんとさっきまで遊んで、僕は心の底から笑えた・・・君とならなにか変わる・・・いや、変えられると思ってる・・・だから、沢田さん」
僕は沢田さんの目を見つめ口を開く
「僕と一緒に演じてくれないか?【日常】という舞台を・・・」
僕は沢田さんに手を差し出す
「うん!」
沢田さんは僕の手を取り強く握る
この世は大きな演劇だ・・・・・みんな、気づかぬうちに役と台本を与えられそれの通りに演じている・・・・・それは誰にも変えられないそう思っていた・・・でも君となら
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