第34話 勇者達の話を酒場で
この町に拠点を構えてから1ヶ月以上が経った。
俺は、ミュージックバーで、レイラさんの歌を聴きながらお酒を飲んで、マスターと話をしていた。
今では俺は、ここの常連客だ。
マスターからは、ジョージと呼ばれるようになっていた。
「あ、そういえばよ、勇者様の話、聞いたか?」
「あー……西の国に召喚されたってのは知ってますよ。それでこっちに流れて来たんで」
「おうそうか。こっちに来たのは正解だったな。じゃあよ、召喚されたのが男の勇者様と女の大魔道士様と聖女様だったって話は知ってるか?」
「まぁ、噂程度で耳にしてましたね。何か勇者様達に動きがあったんですか?」
「おう。動きなんて生易しい話じゃねぇんだがよ。今回の勇者様達は、ハチャメチャだな!」
お、勇者達、魔族領で暴れ始めたのか?
ハチャメチャって言うくらいだからな……魔族の人達が上手く逃げてくれれば……
そう思っているとマスターが話だした。
「まずな、勇者様達をお披露目するパレードが行われて、その後パーティーが開かれたんだと。そこで勇者様が酔って、メイドに手を出しちまったらしい」
「手を出す? 殴ったんですか?」
「いやいや、酔って手を出すて言やぁ、男女の仲になるってことよ」
「あぁ、羽目を外しちゃったんですね」
「ま、ある意味、ハメは外しちゃいねぇがな! ガハハッ」
マスター、下ネタぁ!
ま、今近くには俺とマスターしかいないから、俺も一緒に笑ってるけどさ。
「んでよ、次の日になって、そのことが大魔道士様と聖女様にバレちまったんだと。それで怒った大魔道士様が城にあった勇者様の部屋を魔法で吹き飛ばしちまったらしい」
「ええぇ……怪我人とか大丈夫だったんですか?」
「そこは聖女様が何とかしたらしい。んで、国王とか御偉方が、城に勇者様達がいるのは怖いってんで、すぐさま前線に送られたらしいんだわ」
「まぁ、でしょうね。前線で戦ってれば、喧嘩したりする余裕は無くなるでしょうからね」
「あぁ。だがよ、前線も前線で国王や御偉方に話が行かないように上手いことやってたのよ」
「上手いこと?」
「上には魔族との戦争は膠着状態と話しておいて、実際は……サキュバス族とよろしくやってたのよ」
「ええぇ……」
「ま、前線の兵士達っつっても、元冒険者や平民とか下っ端連中だしよ。もともと戦争なんてする気がなかった連中が前線に送られてたんだと。魔族領の連中もその辺は理解してたみたいで、前線の連中と話をつけて、戦ってるふりをしてたらしい」
「よくそれで誤魔化せましたね」
「そこは前線にいる指揮官や上官連中も抱き込んだらしいぜ。だからよ、魔族は夜襲をかけてきて昼に戦える戦力がない状態で膠着状態だって伝えてたみたいだな」
「へぇ」
「ま、確かに戦争はしてたんだろうさ。サキュバス達との夜の戦争をよ。ガハハッ」
下ネタで、笑った俺たちは、ショットグラスに酒を注いで乾杯をして、グッと酒を呷った。
「ぷはっ! んで、勇者様達よ。そんな前線に送られたもんだから、まーた勇者様は羽目を外しちゃった訳よ。そんで大魔道士様が……ドーーーーンッ」
マスターは、片手をグーにしてからパッと開いた。
「敵も味方も怪我人だらけよ。そこへ聖女様がみんなを癒したもんだから、聖女様は敵味方の両方から賞賛されたんだと。んで、魔族領の指揮官として来ていた魔王の息子がサキュバス達を救ってくれたってんで、聖女様に会って感謝を伝えたらしいんだわ」
なんだろう思ってたのと違うな。
ギャグかな?って思うくらいな展開だな。
「でだ! 魔王の息子と聖女様が会ったことで大きな問題が起きちまったらしい」
「問題ですか? 会いにきた魔王の息子を勇者様が倒したとか?」
「いや、大魔道士様が魔法でぶっ飛ばした後、勇者様と大魔道士様は行方不明になっちまったらしいぜ」
「ええぇ……」
「問題ってのはよ……魔王の息子と聖女様がお互いに一目惚れして、恋仲になって、2人して魔族領に行っちまったことだな」
「えぇー、もう戦争どころじゃないじゃないですか」
「おうよ。もう魔族領では、魔王の息子と聖女様の物語が本や劇になっちまってるらしいぜ。領全体がお祝い状態になっちまってるんだと。まぁ、西の国はもうお終いだろうな。召喚した勇者様達が全員どっか行っちまったんだからよ。ガハハ」
勇者達、いったい何やってるんだか。
ま、俺がこっちに来たのは、ホント正解だったな。
そういえば、師匠達も無事にこっちに来れてるかな?
戦争らしい戦争も起きてないから、大丈夫だと思うけど。
こうして、俺はマスターと、下ネタが入り混じった男だけの楽しいお酒を飲んだのでした。
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