第29話 開店と畑

 次の日、錬金術師としてお店を開店した。

 商品は、ポーション、ハイポーションの錠剤、毒消し薬だ。


 もし、他の症状があるようなら、話を聞いて処方?しよう。


 お客さんは、朝に冒険者風の人が数人、毒消し薬を買ってくれたくらいだった。

 これは、俺が控えていてもしょうがないな。

 俺も畑を整えるか。


 昼食を済ませ、イリアに畑にいると声をかけて、畑に向かった。


 アイギスさんに自由にしていいと言った一画だけ植物が抜かれていた。

 半日で草取り終わらせちゃうなんて、さすが若いなぁと思いながら、植物生い茂る畑に近づいた。


 この辺から畑かな、と思う場所に屈み、雑草を素手で抜いていく。


「よっ! っしょ! ふんっ! ッ痛!!」


 シュッとした雑草を抜こうとしたら、手が滑り葉で、スパッと指を怪我してしまった。

 

「くぅ〜。【浄化】! あぁー、コレは革手袋とか草かきが必要だわ」


「ジョージさん……なにやってんのよ」


 振り向くと、アイギスさんが村人スタイルで鍬を持ち、呆れた表情をしていた。


「いやぁ、とりあえず少しでも草取りしちゃおうと思ってさ。イテテ」


「切ったの?」


「あー、うん。草取りなんて子供の頃以来でさ。確かあの時も切ったなぁ」


「何懐かしんでるのよ……もう、はいコレ」


「ん? 薬草?」


「そう。小さい切り傷なら、薬草を揉んで当てればすぐ治るよ」


 俺は言われた通り、薬草を揉んで切ってしまった所に押しつけた。

 沁みて痛いと言うことはなく、ちょっと痒いなくらいで、傷が治ってしまった。


「おぉ! さすが異世界!」


「さすが異世界じゃないわよ。ちゃんと手袋しなきゃダメじゃない」


「面目ない。ちょっと商店街に行ってくるよ」


「あ、なら、何か苗か種を買って来てくれない?」


「アイギスさん買ってないの?」


「ええ。今日は畝まで作れたら止めようと思っていたから」


「そうなんだ。苗か種ね。りょうか、あッ!!」


「ッ!? だぁから! 急に叫ぶのやめてよ! ビックリするから!」


「ごめん、ごめん。そう言えば俺、苗とか種持ってたなと思い出してさ」


「……なに歳なの? 忘れすぎじゃない?」


「し、辛辣だなぁ……確かにアラフォーだけどさ。しかし歳のせいではないと言っておきます! じゃ、ちょっと持ってくるね」


 俺は、物置にしまっていた木箱を持ってきた。

 この中には、ヤマイモとジャガイモとサツマイモの植木鉢と各種ハーブの種が入っている。


「はい、どれでも好きに植えちゃって」


「え、コレ?」


 アイギスさんは、植木鉢を指差して困惑している。


「だいぶ育ってるし、ヒョロヒョロだけど……植え替えて大丈夫なの?」


「……」


「ねぇ、なんで黙ってるのよ」


「いやぁ……そう言えばそうだなぁと」


「……ジョージさんって歳じゃなくて、ただのバカだったのね」


「うぐっ」


「うぐっじゃないわよ! はぁ……なら、この植木鉢持って種苗店にいきましょ」


「あぁ、そうだね聞きに行けばいいね!」


 ジト目を頂戴しました。


 俺は、イリアにアイギスさんと出かけてくると声をかけて、マジックポーチに木箱を収納し、商店街にある種苗店に向かった。


 種苗店の店員さんは、若く愛嬌のある女の子だった。

 アイギスさんより少し幼く見えるな。


「いらっしゃいませ〜」


「すみません。植木鉢に植えてたモノを畑に植え替えたいんですが、大丈夫かみてもらえますか?」


「いいですよ。えっと、どこにありますか?」


「ああ、今出しますね」


 そう言って、マジックポーチから木箱を取り出し床に置いた。

 俺は木箱の中の植木鉢を指差して伝える。


「この植木鉢のヤマイモとジャガイモとサツマイモなんですが、だいぶヒョロヒョロになっちゃって」


「うーん、全体的に色も薄いですね。コレは、あまり日に当てなかったのでは?」


「そうですね。旅の間に手に入れて、植木鉢に植えて木箱に入れてマジックポーチに」


「あー、ヒョロヒョロの原因は、それですね。マジックポーチの中では、日は当たらないですからね。そうすると、うーん……」


 店員さんは、うんうん唸りながら、店内にある商品の前で止まり、小さな皮袋を手に取った。


「これですね! 鉢植えのまま、この植物の栄養剤を使えば、2・3日で、元気いっぱいになりますよ! そしたら、植え替えても大丈夫だと思います!」


「おぉ! それが……では、それ買います! あと、今の時期だと何が植えれますかね?」


「???」


 キョトンとする店員さん。

 するとアイギスさんが小声で教えてくれた。


「東の島国は、1年を通して初春から初夏くらいの気温なのよ」


 アイギスさんの言葉に驚いていると店員さんが何かに気づいたようだ。


「あ! 最近大陸から来た錬金術師さんって、あなたですか?」


「あ、はい。自分がその錬金術師です」


「それならこの辺のことを知らなくてもしょうがないですね! うちにある苗や種なら、どれでも大丈夫ですよ! あとさっきの芋類も大丈夫です!」


「そうなんですね。うーん、アイギスさん何か好きなの選んできて」


「え、いいの?」


「うん。俺は各種ハーブや薬草、毒消し草とか育てられればいいからさ」


「そういうことなら。ちょっと見てくるね!」


「了解」


 アイギスさんはウキウキな様子で、種や苗を選び始めた。


「うふふ、可愛い娘さんですね」


 一瞬何を言われたのか分からなかった。

 今度は俺がキョトンとする番だった。


「あ、あれ? 違うんですか?」


「え、えぇ。うちで雇ってる子ですよ」


「す、すみません! 確かに全然似てないなぁとは思ったんです! てっきり奥さんに似て美人さんなのだとッ」


 こ、この子、結構なこと言ってくれますね。

 確かに、年齢的に娘ってのは誤解されるかもだけど、外見は言わなくてもいいんじゃないかなぁ?

 確かに、俺とは全然違う美人さんだけどさぁ。


 俺は、引き攣った笑みしか返すことが出来なかった。


 店員さんは、すみませんすみませんと何度も謝っていた。


「も、もう大丈夫ですから。じゃあ、俺も少し見て来ますね」


「あ……すみませんついでに、この植物の栄養剤も作っていただけませんか? 今はヒノモトから仕入れていて、値段が少し上がっちゃったんです」


 おっと?

 商売根性の逞しさも併せ持つのね?


「そうなんですね。うーん、でも自分、作ったことがないので……ちょっと調べさせていただいてもいいですか?」


「はい! もちろんです!」


 俺は、植物の栄養剤を受け取り、皮袋を開けて中身を見ながら【調べる】と唱えた。


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名前:肥料


植物を生育させるための栄養分として人間が施すものである。特に窒素・リン酸・カリウムは肥料の三要素と呼ばれる。


形態的分類では、粒状肥料、固形肥料、粉状肥料、液状肥料、ペレット状肥料に分類される。粉末で流通し使用者が液状肥料にして用いるものもある。

(wikiより)

===========


 うん。全然わからん。

 ただ肥料だってことは分かった。

 ん? でもこの店でも肥料は別で売ってたはずだけどな……。


「あの、これ肥料なんですか?」


「え? それは植物の栄養剤ですよ?」


 やばい、またこのパターンだ。

 どうしよう。

 とりあえず、肥料について聞いてみよう。


「あっちに置いてある肥料ってなんですか?」


「あれは、チッソ、リンサン、カリウムって商品ですね!」


 あるじゃーーーーん!

 


 その後、店員さんには作れるかどうか分からないけど、作れたら持ってくるっと言っておいた。

 今日は、とりあえず、3種類の肥料とアイギスさんの選んだ苗と種、草かきと革手袋などを購入して帰宅した。

 

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