第25話 船旅中の①

 港町を出航して東の島国までは、5日かかる船旅だ。

 何台かの馬車も馬も船に乗っている。

 客室は全室が個室となっている大きな船だ。

 

 長い船旅の間は、特にやることもないので、魔法を取得出来ないかチャレンジしてみるつもりだ。


 まずは。一般的には難しいと言われている魔法の取得にかんして、アイギスさんとイリア、テマリの部屋に行って話を聞いてみることにした。

 部屋に入ると、アイギスさんはベッドに座り、イリアは椅子に座り、2人の間にはテマリの入った木箱があった。


「いきなりなんだけど、魔法ってどうやって覚えるの?」


「入ってくるなりいきなりね。まぁ座れば」


 そう言って、イリアの向かいにある椅子を指さしたので、俺はそこに座る。


「ありがと。まぁ、船の中じゃ大してやることもないし、覚えられたらいいなぁって」


「ご主人様、魔法は難しいと思いますよ。それにここには魔導書もありませんし」


「魔導書?」


「ジョージさんは、知らないのも無理ないわ。魔導書って魔道士ギルドでしか買えないから」


「あー……魔法が使えるなら登録が必要って言われたような気がする」


「そうね。教会で祈った時に魔法が授けられるか貴族でもないかぎり、まず行くことなんてないからね。それに魔導書って高いのよ」


「そうなんだ。どのくらいするの?」


「金貨100枚からね」


「高っ! え、他に覚える方法とかないの?」


「さぁ? 知らないわね」


「イリアも?」


「申し訳ありません。存じません」


「そっかぁ……でもさ、2人とも生活魔法は使えるよね?」


 頷く2人。


「なら、着火と飲み水生成ってなに?」


「なにって言われても、生活魔法でしょ」


「そうなんだけどさ、言ってみれば火属性と水属性だよね」


「うーん、言われてみればって感じかしら」


「そうでございますね。確かに属性を考えれば、その2つになるかも知れませんね」


「でしょ? ならさ、そこからなんとか覚えられないかなって思ったんだけど、そういう話も無いんだよね?」


「聞いたこと無いわね」


「私も聞いたことはありませんね」


「そっか……あ、なら浄化ってどんなイメージで使ってる?」


「イメージなんてしたこと無いわね。ただ浄化って唱えるだけね」


「私もアイギス様と同じですね」


「あれ? そうなんだ。俺だけかな? ちょっとこの部屋に使ってみるね」


 俺は、部屋を見回して、いつも通りに綺麗になるイメージをしながら【浄化】と唱えた。

 すると、イメージ通り、細かな汚れまで綺麗になった部屋になった。


「なにこれ……」


「これが浄化でございますか……」


「イメージして使うとこんな感じ。なんとなく思ってたけど、浄化ってここまでじゃないの?」


「……さすがに、ここまで綺麗にならないわね。それに範囲がありえないわね」


「そうなんだ。ま、そういうことでイメージしたら、着火も飲み水生成も魔法のきっかけになるような気がするんだよ」


「なるほどね。部屋だと何があるか分からないから、甲板に出て海に向けて試すのがいいと思うわ」


「そうだね。2人も試してみる?」


「とりあえず、私はテマリちゃんを抱っこしながら見させてもらうわ」


「わかった。イリア?」


「……ちょっと頭が混乱していて……アイギス様は冷静でございますね」


「あー、ジョージさんあの話、まだイリアにしてないでしょ?」


「あの話? 俺が異世界人って話?」


「え!? ご主人様は、勇者様だったのですか!」


「え、あ、勇者じゃないよ。巻き込まれた一般人」


「ま、一般人と言えど、異世界から来たってことは確かね。それを知っていたから、私はあまり驚かなかっただけよ」


「そ、そうでございますか……」


「それで私たちの常識とズレがあるのよ。だから、あまり変なことをしないように見てないとね」


「確かにそうでございますね」


「いやいや、変なことなんてしないから。とりあえず海に向かって試してみるよ」


 こうして監視?されながら、甲板での実験となった。


 甲板に出ると、快晴で気持ちの良い風を感じることが出来た。

 俺は、邪魔にならないように、人がいない船尾から海に向かって試すことにした。


「まず飲み水生成ね」


 手を前に出し唱えると、普通に発動すれば蛇口を適度に開いた量が出てくる。

 これもなんとなく蛇口から出てくる水をイメージしているのかも知れないな。


 ならこれを、高圧洗浄機から出てくるイメージをすれば……。


「【飲み水生成】 うわっ!?」


 海に向けていた手から勢いよく水が出たため、倒れそうになった。

 しかし、出来たね。

 これを水の球が飛んでくイメージで発動すれば、もうアクアボールみたいな魔法になるんじゃないかな。


 俺は、アニメやゲームとかでみたアクアボールっぽいものをイメージしながら、唱えてみる。


「【飲み水生成】ッ!!」


 シュっと音がして、海に向かって小さな水の塊が飛んでいった。


「おぉー出来た」


「さすが異世界人ね。ありえないわ」


「……」


「2人とも今のイメージしながらやってみてよ」


 アイギスさんは渋々ながら、片手を海に向けてくれた。

 イリアは唖然としていたので、背中を軽く叩き、やってみてと促した。


 2人とも飲み水生成と唱えると、ちょろちょろっとコップ1杯分くらいの水がでただけだった。


 なので、隣で俺が放つ飲み水生成を何回も見せながら、チャレンジしてもらった。

 何回か試していると、2人ともちょろちょろ流れるのではなく、小さな水の塊が出来るようになった。

 

「まだ飛ばないけど、飲み水生成でいつもと違うことが出来たね」


「そう、ね。信じられないけど、イメージで変わるみたいね」


「……そう、で、ございます、ね」


「2人とも大丈夫?」


「ちょっと、魔力を、使いすぎた、みたいね」


「普通より、魔力の、消費が多い、気がしま、す」


「え! ならすぐ戻ろう!」


 俺は2人に肩を貸して部屋まで戻った。

 テマリも心配そうにクーンと鳴きながら俺達を先導してくれた。


 部屋に戻り、2人を寝かせて、魔力ポーションという名の出し汁を作成。

 それを器に入れて、2人に飲んでもらった。

 話は、また明日ゆっくりすることにして、2人には休んでもらった。


 俺はまだ魔力ぎれになったことないから、分からなかったけど、だいぶ辛そうだったな。

 もしまた試す時は、魔力ポーションを飲める状態にしてやったほうがいいな。




 

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