アラフォーオジサン異世界でなんとか生きています

ヴィジラント

第1話 巻き込まれました

 また職場に馴染めなかった。

 どうして理不尽な命令にYESと答えなければいけないのか。

 なぜ定時で帰ってはいけないのか。

 分からない……。

 これまでいくつもの職場を転々としてきたが、どこもかしこも同じ理由でクビになる。

 俺は使えないらしい。

 やるべき事はやっていたはずなんだがなぁ……。



 肌寒くなってきた10月、俺は職安から出てきた。

 大きくため息を吐いて、俺は一人暮らしの自宅へ帰る。


 職安は自宅から徒歩10分程だ。

 両親はすでに天寿を全うし他界している。

 兄と姉は、それぞれ都会で家庭を築いて、田舎にある実家は俺が1人で住んでいる。

 職を転々とする俺にとっては、自宅から職安が近くて有難い限りだ。

 家の掃除は面倒だが。


 片側1車線の道路に、3人がギリギリ並んで歩ける程の歩道を歩き、自宅へと向かう。

 すると、前から3人の高校生が歩いてきた。

 男子高校生1人と女子高校生2人、なかなか素敵な青春を送っているようだ。

 話に夢中になっている高校生達は、俺がいることを気づいていないようだ。


 しょうがないので、石垣を背にして立ち止まる。

 女子高校生の1人と目があい、3人は俺がいる事に気づいてくれたようで、どうにかぶつからずに済みそうだ。

 すれ違う時に、男子高校生が舌打ちしてきたが。


 その舌打ちが合図になったかのように、目を開けていられないほどの光が俺たち4人を飲み込んだ。



「おぉ成功したぞ!」

「おぉ!」

「ん? 4人いるぞ」

「3人ではなかったのか?」

「まぁ良いではないか、多い分には」

「しかし1人はだいぶ歳が」


 ざわざわとオジサン達の声が聞こえてきた。

 まだチカチカする目を開けてみると、石造りの部屋の中で、黒いローブ姿のオジサン達に囲まれていた。


 何が起きたのかは分からないが、歳のせいか案外冷静な自分がいる。

 足下を見てみると、複雑に絡まった線や見たこともない文字が描かれている。


 まさか魔法陣ってやつか? 

 もしそうなら、これは異世界転移ってやつか。

 まぁ、もしももなにも、こんな不思議体験なんて、白昼夢か転移しか思いつかないよな。 

 感覚はしっかりしているし、抓れば痛いから。

 あとは、あの光がキャトルミューティレーションされた瞬間で、これは宇宙人に見せられている何かって可能性が微レ存?

 今の状況としては、ラノベやアニメで知っているやつだが、しかし俺は35歳のアラフォーだ。

 間違いなく巻き込まれってやつじゃね?

 すごく嫌な予感がします。


 3人の高校生をみると、戸惑っているのは女子高生1人だけのようで、残りの2人は、はしゃぎながら楽しそうに話している。


 すると、部屋の扉が開き、司祭服を着た男性と白いドレスを着た高校生くらいの金髪の女の子が入って来た。

 

「ようこそ異世界の勇者様。私は、王女のシルヴィーと申します。これから皆様の能力を確認させていただきます。では、ステータスと念じてください」


 俺は言われた通り、ステータスと念じてみた。

 すると目の前に、半透明のウインドウが現れた。



=========

名前:麦蔵 譲司 (ムギクラ ジョウジ)

年齢:35

職業:無職

レベル:1

魔法:なし

スキル:なし

=========



「おぉ! 俺勇者だってよ!」

「わ! 私は大魔道士だよ!」

「えぇ、なんか聖女って書いてあるよぉ」


 ……まじか。

 終わってる感が満載ですね。

 これ即追放では?

 微笑みを浮かべている王女様がこちらを見ている。

 言わないとダメだよな……。


「あ、えっと、無職です……」


「ブハッ! マジ!? オッサン無職かよ!」

「わ、笑ったら失礼よ……ぶっ、あははは!」

「え、え?」


 うん……聖女って言ってた子以外はクズだな。

 まぁ、王女も一瞬だが顔を顰め、司祭服を着た男性に目配せしている。

 司祭服の男性は、俺達を順番に見つめ、王女に頷いた。


「確認が出来たようですね。勇者様方、どうぞこちらへ」


 王女の案内で高校生3人が扉を出ていく。

 俺も後について行こうとすると、扉の外にいたプレートアーマーの騎士に止められた。


「お前はこっちだ。ついて来い」


 俺は言われるがままついていく。

 いくら理不尽だからって、変に抵抗したら殺されるだろうからなぁ。


 しばらくついていくと、外へと出た。

 そのまま城門の外まで出たところで、プレートアーマーの騎士は門番の2人に何かを囁き、帰っていった。


 マジか……。

 金も食べ物も何も無しで追い出すとか。

 戻ろうにも、門番の2人が道を塞いでいるし、めっちゃ睨んでくるんだけど。

 有無を言わさずってこのことだろうね。

 

 あらためて、周りを確認する。

 城は高い場所にあるようで、城下町を見渡せる。

 城を中心に、立派な建物が広がっていて壁で区切られた先は、雑多な建物がギチギチに並んでいる。そして、最後は大きな壁があり、草原が広がっていた。


 一応ここからなら、どうやって雑多な場所まで行く道が確認できたな。


 俺は、ルートを頭に入れて歩き出す。

 立派な建物の前には、所々に門番が立っていた。

 次の門を越える時も、俺が出た後に、戻れないように道を塞がれた。

 門番達は、みんな睨んできたけどな。


 というか、臭い。

 とてつもなく臭い。

 糞尿の匂いが充満している。


 これもしかして、中世ヨーロッパな感じなのか?

 窓から声掛けて、糞尿投げ捨ててる?

 この環境はアウトだろ。すぐ病気になるぞ……。


 石畳の地面を見てみると、うん、あるね。

 茶色の何かが積もってる。

 道の端の方が厚みがありそうだ。

 あぁ、みんな少し内側を歩いているね。

 マジか……。


「捨てるぞー!」


「待ってくれー!! いいぞ!」


バシャンッ


 マジか……。

 もうマジかしか言えない現実。

 魔法とかスキルとかで、なんとかしてるんじゃないの?

 俺が見たり読んだりした異世界ってこんなんじゃなかったぞ。

 みんなの服装は、立派とは言えないけど、それなりの異世界っぽい感じなんだけどな……。

 これ紙も無いよな。布かボロきれで拭く感じかもしれない。

 早急に、早急に! 錬金術か何かしらのスキルを手に入れなければ!


 目のあった男性に声を掛けてみる。


「あのすみません。ギルド? 組合? みたいなのってどこにありますか?」


「ん? なんのギルドだ?」


「えっと……すみません。どんなギルドがあるんですか?」


「変なこと聞くな。ギルドは、冒険者ギルドと商業ギルド、魔道士ギルドだろ」


「あ、そうなんですね。では、商業ギルドは何処でしょう?」


「ほんとおじさんどっから来たんだよ。この城下町に入ってくる時、門の近くにあっただろ?」


「あー、そうなんですね。すみません、初めて来て圧倒されちゃってて」


「はは、おじさん田舎から来たんだな。見たことない上等な服着てるから勘違いしちまったわ。悪かったな」


「いえいえ、教えていただきありがとうございます。行ってみますね」


「おう、気をつけてな」


 俺は男性と別れ、街の入り口に向かって歩き出す。

 勇気を持って歩き出す。

 固そうな場所を選んで歩き出す……。


 もしかしたら、ギルドは全部入り口にあるのかも知れないな。

 こんな奥まで来たら糞尿がヤバイからなぁ……。


「捨てるぞー!」


「わ! 待って待って!! いいですよー!!」


バシャンッ



 この城下町……いやもしかしたらこの世界、怖すぎる!




 

 

 

 




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