隠れキリシタンの村
森に身を隠したボクは、しばらくたぬきのまま過ごした。
三ヶ月くらいたった頃だろうか? 騒ぎが収まったようなので、ボクは、人間にまた化ける事にした。
バテレンということを隠すために、行商人のふりをして都を後にした。
ミサに使う聖杯(カリス)とかを持っているとバテレンとバレてしまうので茶道に使う茶碗を祝福して代わりにする事にした。
役人にバレれば、どうなるか分からない危険な旅だった。
さて、どうやって信徒を探すか? 公に集まりを開くわけにも行かないしこのご時世に、見た目でキリシタンと分かる人はいない。
ある日の事、立ち寄った村で、突然「神父(パードレ)」と若い女性に呼び止められた。
にこりと笑いながら「やっぱりパードレさまだぁ」
どうして気がついたのかは、分からないけど、どうやらこの村はキリシタンが迫害を恐れて、様々な場所から集まって出来た村のようだ。
おじいさんがやって「パードレさま、よくおいで下さいました。わたしは村長のヨセフと申します」と深々と頭を下げた。
「オラは、マグダレナ、やっぱり夢で見た通り、パードレさまが来て下さった」
夢で見た? どういう事だろうと思っていると、ヨセフさんが「この子は神さまのお告げを夢でみるのですよ」とマグダレナさんの肩に手をおいた。
「父ちゃんお告げだなんて大袈裟だよ」
親子で洗礼を受けたのか!? それにしても、お告げを受ける能力があるなんて、きっと、神さまに祝福されているんだろうな。
村人達が、集まってきた「パードレさまが来て下さった!」とみんな大喜びだ。
ヨセフさんが「村の奥に誰も住んでいない、荒れ寺がありますからそこを南蛮寺としてお使い下さい」と村の奥を指さした。
こうしてボクは、この隠れキリシタンの集まった村に、住むことになった。
村に来て次の日の朝、ミサをすると村のみんなは、大喜びで、泪を流す人もいた。
「オラ、もう、御ミサ、一生うけらんねぇかと思ってたんが、本当によかった」
トマスさんというおじさんが、泣きながら声を出した。
こんなに喜んで貰えるなんて、バテレンになってよかったと思う。
村に滞在して、どれくらいたった頃だろうか、広場で、マグダレナさんを囲んで村人が集まっているので話しを聞きに行った。
「都より遙か西、26人のキリシタンが殺される。名前は、パウロ・・・・・・子供もいる名前は、ルドビコ・・・・・・」
何かに取り憑かれたように、マグダレナさんがしゃべり続ける。
村人たちは、泣きながら十字を切っていた。
またボクと同じ名前・・・・・・
それに子供まで殺されるなんて・・・・・・
「この村も危ない! もうじき役人がやって来る」
マグダレナさんの言葉に、村人達の顔は青ざめていった。
「どうやらこの村も・・・・・・」
ヨセフさんは更に続けた。
「みな、はなればなれになっても神の家族! 父と子と聖霊に栄光あれ!」
村長として堂々と言うと村人達は声を合わせて叫んだ。
「アーメン! ハレルヤ!」
村の人達はみんな、風呂敷に荷物を包んで、旅の支度を始めた。
「パウロ上人さまも、早くお逃げ下さい」
ボクも荷物をまとめて、逃げようとした時だった。
馬に乗ったお侍さんが、沢山の役人をつれてやってきた。
「この村の者は、みな、キリシタンだと言うが間違えないか!?」
大きな声で叫んだので、村の奥の南蛮寺まで聞こえた。
「パウロ上人さま! 早く術を解いてお逃げ下さい」
えっ? 驚きながらも、お告げを受ける力のある女性だ、ボクの事もはじめから分かっていたのだろう「わかりましたマグダレナさんもお気を付けて」マグダレナさんは立ち上がる「オラなら大丈夫だ」笑顔に見えるが、ボクには、作り笑いだというのが分かった。
術を解いてたぬきにもどると「かわいらしい、パードレさま、おたっしゃで」そう言って、マグダレナさんは、外へ出て行った。
外から役人達の声がした。
「まだ、残っていたぞ捕らえよ!」
ボクは、胸が張り裂けそうな思いがしながら森へ戻って行った。
そして、泣きながら祈ったんだ。「ああ、マリアさま、イエスさま、どうして、この様なことを、ボクには、この様な試練は耐えられません」多くの仲間を失ったボクは、森の中でひたすら泣いて過ごした。
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