キングオブヴァンピール

時雨治

第1話キングの誕生

18世紀イギリス後期

少年は死の引き金を自らで引く。

少年は吸血鬼であった。少年は快楽を求めた。それは交わる事でもなく賭け事をするでもない。少年にとっての快楽とは、自殺であった。

溺死、焼死、窒息死、中毒死、圧死。

様々な自殺を試した。だが、どれも苦しく、苦しんでいる姿はまるで強姦され、陰部を灰皿代わりに葉巻を吸われている様であった。

そんな憂鬱で退屈な日々を過ごしているある日、吸血鬼の少年の前に男が現れた。

そこ男はブロンドの髪を揺らし、英国紳士とは思えない格好をしていた。その姿はまるで、西部劇に出てくるガンマンのようだった。男は白群色の目で少年をまじまじと見つめるやいなや、腰に装備していたホルスターからフリントロック式ピストルを目に見えないほどの速度で取りだし、少年の頭に銃弾を叩き込んだ。

少年の脳を、銃弾は抉り取りながら貫通する。

少年は怯みながらも男に抵抗する。

「何するんだこのくそイギリス人が!」

男は顔に笑みが溢れてきているようだった。

「お前、吸血鬼のくせに今の銃弾でよく死ななかったな。よし決めたぜ、お前俺の飼い猫になる決意をしろ!」

少年は銃弾をぶち込んできた男の喉笛に飛びかかろうとしたが、体を動かす前に男に頚椎をピストルで殴られ気絶してしまった。


気がつくと、そこはイギリスのマンチェスター大聖堂の中であった。辺りを見渡すと男が居ない。これはチャンスだと思い、思い切り地面を蹴って飛び上がろうとするが、なにかとてつもなく重い物に引っ張られる。驚き足元を見ると、囚人が足に着けているような足枷が着いている。焦り、足枷を取ろうとするが、万力を入れたとしても鎖は外れない。切断しようとしても、鎖を断つことはできない。

「驚いたか。お前が今足につけるその足枷は、普通の足枷じゃない。お前ら吸血鬼を安全に保管しておく為の足枷であり、お前の‪”‬運命の足枷‪”‬だぜ。」

急に現れた男に飛びかかろうとするが、足枷が邪魔をして動けない。そんな姿を見て、男は口角を上げながら、話を続ける。

「いいか、俺はお前ら吸血鬼をぶち殺す為の人間。

‪”‬銀の銃弾‪”‬って言うんだぜ。かっこいいだろ?」

どうやら男は銀の銃弾という吸血鬼を殺す為の組織に属しているようだった。さらに男は色々な事を話し続けた。もし、このままお前が抵抗するというのなら、俺はお前のことを処刑する。だが、抵抗せず、大人しく飼い猫になるというのならこのまま生かしてやる。ただし、飼い猫になった場合ある条件があるという。それは、一生、男の吸血鬼狩りの‪切りトランプ‪として生きていくということ。この切りトランプというのは種類がある。

切り札となった吸血鬼にはハート、ダイヤ、クラブ、スペードという分類に分けられる。その中で、エースからキングの数字が割り振られる。その数字は、吸血鬼にとっての名であり、暗示のようなものである。

「よっし、てなわけでお前にはトランプを引いてもらう。それがお前が俺の飼い猫になる第1歩って訳だぜ!」

少年は興奮を覚えていた。今まで自ら死ぬ事でしか快楽を見いだせなかった少年が、ある日突然、死ぬ事よりも楽しいものを見つけてしまったのだ。それはまるで壊れない玩具を与えられた子供のようだった。

「いいぜ!乗った!お前の飼い猫になってやる!だが

、これからの物語は、俺がお前という試練を殺す物語だ!」

少年は指で弾いた小石でトランプを撃ち抜いた。

指で弾いた小石は見事にトランプのど真ん中を撃ち抜き、男の頬を掠めた。

「カッハー!大当たりだぜ!死を意味し、手段のためなら目的すらいとわない野心家のカード!スペードのキング!いいぜお前!お前の名前はキングだ!」

今から始まるこの物語は、ただひとりの吸血鬼の少年が、キングになる物語だ。共存という意味ではなく。

自らの器と手で従えるという意味で。これは、運命の足枷を外し、未来を支配する少年の物語である。

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