あんパンと牛乳

ピーコ

あんパンと牛乳

学生時代の友人数人と久々に飲んだ。思い出話に花が咲き、すっかり遅くなってしまった。それに調子に乗って酒を飲みすぎた。


元々、酒がそんなに強くないのだ。あー、頭いてー、しかも気持ち悪くなってきた。コンビニで水と朝食用のパンと牛乳を買った。どっかで休もう。近くに小さな公園を見つけた。


遊具が2つくらいしかない小さな公園。俺はベンチで休むことにした。水を半分くらい飲んで、落ち着いてきたので、立ちあがろうとした時、ふと視線を感じた。


ブランコに女の子が座っている。さっきまで、あんな子いなかったよな。女の子が俺に笑顔で手を振っている。


髪は背中までの長さで、ボサボサ、体は薄汚れている、Tシャツに短パン。Tシャツは襟元も裾も伸びきっている。足元は、裸足。しかも体は、ガリガリに痩せている。年齢は小学校低学年くらいだろか。


親に虐待でも受けて家を追い出されたのかな。「遊ぼ!」女の子が話しかけてきた。女の子がブランコを押して欲しいと言うので、しばらく、ブランコを押してあげた。


俺は、だいぶ睡魔が襲ってきたので女の子に言った。「お兄さん、そろそろ帰るよ。お家まで送ってあげるよ」と。


女の子は言った。「私、お家ないの。」


「えっ、お家がないって❓」俺は聞き返した。


女の子は、話し出した。「この公園の前、アパートだったの。そのアパートに住んでたの。私、お母さんと一緒に住んでたんだ。お母さん、好きな人が出来たんだって。その人と結婚したいけど、私がいるから、できないって、お前は邪魔だって言われた。」


「お母さん、帰ってこない日が続いたの。最初は、食べ物を置きに来てくれてた。でも、どんどん帰ってくる日が減って、とうとう帰ってこなくなった。食べるものがなくなって、しばらくはお水だけ飲んでた。そして、最後は、お水も出なくなった。」


「お腹が空いて、喉が渇いて、しんどかった。

そして、私、死んだの。しばらくして警察の人が私を見つけてくれた。お母さんを探してたみたいだけど、お母さん見つからなかった。」


「それでも私、ここでお母さんを待ってた。何年経ってもお母さんは、帰って来なかった。アパートは取り壊されて、公園になった。いつか私を思い出してくれると思って、今もずっと待ってるの。」


女の子は泣いていた。俺は、黙って女の子の話を聞いた。この子は、こんなに小さいのに泣きもせず、ずっと我慢してお母さんを待ってたんだな。


「腹減ってんだろ、これ食べな。」


俺は朝食用に買ったあんパンと牛乳を手渡した。女の子は、受け取り、笑顔で「おいしい、おいしい」と言いながら、あんぱんを頬張り、牛乳を飲んだ。


あっという間に食べ終わった。女の子は、「お兄さんありがとう。こんな美味しいあんパン初めてだよ。これで、安心して天国に行けるよ。ありがとう。」と言った。


俺は、女の子に名前を聞いた。「名前なんて言うの❓」


女の子は、「幸せの子って書いて幸子。」と答えた。


「さっちゃんか。さっちゃん、バイバイ。」俺が、そう言うと女の子は、スーと消えていった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

あんパンと牛乳 ピーコ @maki0830

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ