第65話
「ルディ様の言う通り、ただの使用人があなたのやったことを告発してもどうにもなりませんから、こうするしかなかったんです」
「余計な真似を……! もう少しでアメル公爵家の力を落とせたのに……!」
ルディ様は頭を抱えて言う。
公爵家のご令嬢が王子の婚約者を殺しかけたのと、ただの使用人が凶行を起こしたのでは、アメル家に与えられるダメージは全く異なる。
アメル家は多少の非難を受けはするだろうが、きっと多数の人からは不運な被害者として見られるはずだ。
「残念でしたね。計画を完遂する前に余計なことをぺらぺら喋るからですよ」
笑ってそう言ったら、ルディ様は憎々しげにこちらを見た。
「お前は死ぬんだぞ。わかっているのか?」
「覚悟はできています。お嬢様が死ぬよりずっといいですから」
「そんなことをして何のメリットがある? そこまでしてあの女に気に入られたいのか。あの女のために死んで評価を上げたって、死んだら何もならないだろ?」
ルディ様は心底理解できないという顔をしている。
私のほうも思ってもみないことを言われて面食らってしまった。
メリットだとか、評価を上げたいだとか、そんなこと考えたこともなかった。
「私はお嬢様に幸せになって欲しいだけです」
正直に答えたら、ルディ様は「きれいごとを」と吐き捨てるように言った。
それから少しだけ冷静さを取り戻したようで、いくらか柔らかい口調で尋ねてくる。
「君にチャンスをあげよう。こんな汚らしい牢屋に入れられて本音では後悔しているのだろう? 君が証言を撤回しさえすれば、ここから出られるようにしてあげるよ」
「それでお嬢様がまた捕まるのですか?」
「さぁね。どうなるかはわからない」
「お嬢様が捕まらないのなら、あなたに私を出すメリットはありませんね」
私がそう言うと、ルディ様はつまらなそうにこちらを見る。
「お断りします。私はここで処刑の日を待ちますから」
「そうか。それなら僕はエヴェリーナさんが暗殺者に依頼したというもっと確実な証拠を用意して、再び犯人として捕まるように仕向けよう。そうすれば君は無駄死にだな。
君は死んで、エヴェリーナさんも処刑される。それでも身代わりになるのか?」
「あまりおかしな動きをすると、ルディ様にも疑惑がかかるのではないですか?」
ルディ様の言葉に少し動揺したものの、それを押し隠して言葉を返す。ルディ様は私の動揺には気づかなかったようで思いきり顔をしかめた。
その様子を見てルディ様にとっても再びお嬢様を捕らえるように動くのはリスクが高いのだとわかり、いくらかほっとする。
その後もルディ様は高圧的な言葉をかけたり、逆に諭すように話しかけたりして私を説得しようとしていたが、従者らしき人物が呼びにくるといまいましそうに私を睨んで去って行った。
静かになった牢屋で小さく息を吐く。
あの人が、どうかもうお嬢様を苦しめませんように。浮かんでくる不安は無理やり頭から追い払った。
牢の中にいる私では、これ以上何もすることができない。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます