5.リーシュの神殿
第22話
私は今日もお部屋でサイラスはどこへ連れて行ったら喜ぶのか考えていた。
本人にも何度も行きたい場所はないか尋ねているのだけれど、あまり希望を言ってくれない。いつも微笑んで、「それならお嬢様の行きたいところがいいです」と言うのだ。
「私はサイラスの喜ぶ場所に行きたいのに……」
侍女に頼んで買ってきてもらったリスベリア王国の観光本をぱらぱらめくりながら頭を悩ませる。
王国の地理については妃教育で散々教えこまれたけれど、こういう一般向けの観光本を読むのは、考えてみれば初めてだ。その中でリーシュの神殿について書いてあるページに目が留まる。
「リーシュの神殿……。昨日夢に出てきたわね。カミリアが聖女の儀を受けたところ」
リーシュの神殿は、リスベリア王国の建国に関わったとされている女神リーシュ様を祀る神殿だ。
王国にいくつかある神殿の中でもっとも位が高く、偉大な聖職者たちが集まっている。カミリアも普段はここに通って働いている。
リーシュの神殿について考えていると、昨日の夢に出てきた神官様の言葉が頭に蘇ってきた。
神官様は聖女の儀の際、「リーシュ様はその愛が大きければ奇跡を起こす」、「リスベリアの人間は不思議な現象が起こると女神様のお導きだと感謝を捧げてきた」と言っていた。
不思議な現象と聞いて、今の私に真っ先に思い浮かぶのはこの奇妙な巻き戻り現象だ。
「……まさか、この巻き戻りはリーシュ様のおかげだったりして」
思わずそんな言葉が口からこぼれた。
しかし、すぐにそんなわけないと思い直す。女神様が実際に不思議な事象を起こした話なんて、伝説以外では聞いたことがない。
けれどなんだか妙に気になって、神殿について書かれたページから目が離せなかった。
***
「サイラス、私の行きたいところならどこでもいいって言っていたわよね?」
「はい。お嬢様の行きたいところならどこへでもお供します」
サイラスを部屋に呼び出して尋ねると、彼は微笑んで言った。
「なら私、リーシュの神殿に行きたいわ」
「リーシュの神殿ですか?」
行き先が意外だったのか、サイラスは不思議そうな顔をする。
「神殿に行くとなるとカミリア様もいらっしゃると思いますが、いいのですか?」
「大丈夫。その辺は抜かりないわ。さっき侍女に調べてもらったんだけど、今日カミリアはジャレッド王子とリフェルの街に訪問に行っているそうなの。今なら出くわさないわ」
「それなら問題ありませんね。しかし、そこまでしてどうして神殿へ?」
「私、もしかしたら女神様に願いを叶えてもらったかもしれないの。だからお礼に行きたいのよ」
「お礼ですか」
「そう、お礼!」
元気よくそう言うと、サイラスは首を傾げる。
「何の願いを叶えてもらったんですか?」
「秘密。でも、心から願ったことなの」
サイラスは私の漠然とした言葉に不思議そうにしていたけれど、すぐに笑顔になって言った。
「どんなお願いなのかわかりませんが、それはいいことですね。きっと女神様も喜ぶはずです」
「そう思う? じゃあ、早速行きましょう!」
サイラスが同意してくれたので、私は張りきって支度をすることにする。
今日はフリル付きのブラウスに、淡い水色をしたハイウエストのスカート、スカートと同じ色のベストを着ることにした。
髪には最近毎日のようにつけている薔薇の髪飾りをつける。
巻き戻って最初に街に出かけたときに、サイラスが買ってくれたものだ。この服装なら動きやすいし、神殿でもあまり目立たないはず。
支度が済んで広間まで出て行くと、サイラスは私の髪につけられた薔薇の髪飾りを見て嬉しそうに目を細めた。
それからお洋服も髪飾りもよく似合っていますと過剰なまでに褒めてくれる。私は得意になってその言葉を聞いた。
私達は早速馬車に乗り込み、リーシュの神殿を目指した。
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