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階状に睡夢の余熱。枕辺に、シラーを燮諧した月色の鴉が躰重を預けていた。常夜灯の残時間が霍然と夜裏になり、心中立指がワイヤーライトの果てに攬持されている。肆目すればその合目的性は、廊下まで覓めなければ晣らかにならないのだと分かった。透明石膏が夜月を映徹させる、柘榴の種衣が煥赫する、風信子が流血から離披する、橄欖が彗星を曳裾する、紫水晶が余瀝に眩耀する変光型水雷球の導線へ、添梯らしく依準する。通路の連続的な残置灯はどれも切れかけの御化けで、夜行の様相を呈している。床面にはMessiahかMessier1を逆進化させて孛々と歳星を摹したSN1054の転瞬が、葉洩れ日に裹束されていた。大開口窓の底から半ばへ、幾何的なびいどろのモザイクが密度を疎にしながら昇躋する。琥珀が揺らめくような層夜が、構の黒影の直列を入れて煥曜している。芳馥が増減して銀鍍金の銅線は、香の敷き方を真似て枝分かれしたポールの枝上を灯火が通移するたび、知らない軌道で動作する錫色の門灯から校舎外まで誘導されている。花壇は時計草や瑠璃繁縷、白水仙の夜閨だった。
青息が凍てつく音を放して満点星が騒く。坂道の電線には、プレアデスが鈴なりになっている。影を曳かれるような、見慣れた脩遠な夜道じゃない。往路には鳩血色の暗赤光を被池とした黒色矮星と見紛う、球体の綴られた蟻通しが落枝していた。棘牆が湊会していく。地面の鉄蓋が晧色の分光を刺れた星座盤になっていて、私の位置関係へ景附して円盤が微動する。
堤防を降下する時、氷の摺動音がした。サクラテニの銀糸を織り込んだ、馬も馭者もいないキャリッジが夜露へ晒すように後部へ結ばれた、色取りどりの細長な紙を流しながら道路橋を横断する。土手は罪咎に圧されたズベンエスシャマリが緑柱石のジャルダンの如く旁礴していた。洪繊に熙る河景の川面からホーゼズネックの霑躰があがり、静止画を裾拘させながら一角獣へ変貌する。それが涵濡された被毛の露を耀示して月光浴に寝そべると、一碧は磷いだ。向こう岸では橄欖がアルセフィナで電照栽培されていて、川裾の方向には船の艫の燦爛がある。電球の意思表示はそこで、柳のように火花を点滅させる月白の一夜花になった。やがて籠目が銅の炎色になり地に零れて、周縁を照燭する。低温の苹果が生る空の薔薇の並木は變わりやすいって、教えたでしょう。そう人声がして、一角から尖晶石の針状光がはらはらと落ち重なる。ファクトが葉叢より沓来する、様がただ夜気と綺錯していてそして、夜燭みたいな眼眸と合った。此面を読んだせいで襟曲は抑圧されて、また睡余ではないはずの場裡をどうしても、柬びたくなる。
繊月から螺旋の皮が剥がれる。飴色の薄玻璃は蛇となって詠唱し、ハダルを均したアスファルトに同化する。灑落のあと口笛音がして、景宿間で菱形が緝熙した。曜変様の泳痕は、与え奪うことを命途にする分岐点のようだ。真鍮色の道路照明灯が等間隔に列立する河岸道で歩月していく。青玉の星彩を飛び飛びにした羽が地表の栞になって鏤められているのは茲で、天馬が騫ぶからだと熙笑する。いまにも覚めてしまうかもしれない煙霞なら、憑拠の導を突き止めたくなかった。宛てのない偶然性が、舛謬ではない限り。
相羊していくと、白詰草の園で金剛形に糸が張り巡らされてあった。蜻蛉の午前星が飛翻する。アルフェッカと通じる、ベイツ型擬態だ。電気石が櫛比した、その映奪でガラスハウスが流波に停まる。彼処の山羊は、もう寝ちゃったかな。声を落としながら、摯実に逡巡しているようだった。後肢が鰭で、不自由だから。どの季節の緑もずっと、なんでも咲いてるよ。昼下りの衆芳がすきなのだと、心做しか物憂げに溢す。
一目だけなら、裏辺の見分けがつかないよう装われた管だと思えたのだ。なのに、予料され得る人為は増やせない。一撮の精度にまで似通う、けれど聱牙な造言に肖似する。鶫の歌う賛美が浮光みたいだと伏目になる。北極星のベガも起こさないようにしようとまた声を潜める。龍座の猫目だと、土瀝青にある朧影へ、後頭に双手を淪翳させたシルエットが沓合する。翕如の前景化も何を冱閉していても衍文ばかりの伝言のようで、対照は手暗に揺蕩う。
分針や秒針が同時に翻渦し始めたとは限らなくて、し続けているとも端からしていないかも知れなくてたとえば斑紋的に、濬源を淘り分けているとすれば。夢中でも事実として現状、星影の地理鑑はそう順応されている。歩行路を経渉する間に流耀するだけの通り雨に遭って星燦を澹漾する、橋脚を救禦したがり絡縫した様の鴨脚樹の葉々がいざよう。オリオンが一擲の蝶となり投扇されて、手摺の雨潦で天の河の星映を靡砕し吸星する。大雲座の蜘蛛が、糸雨上がりの網状星雲を投網に渝変させて夜渡る。
見覚えのない建物の外階段を上って、夜の一面を瞰臨した。フェンスの破れ目から直進したら、星躔の隙へ突き当たりそうだ。ねえ、蜥蜴座の尾が切れたよ。ネイトがあんなに咫い。天躰は、人肌に羸いんだって。絵鳩が爪先立ちのまま埋もれるように、貝殻へ耳を攲てるように寄る。絵鳩はまだ重力へ祗遵しているのに、私だけがずっと嚮に降ろされてしまったような。
蠍が酔眼を持て余して塩の柱を好餌にしたせいで、銀世界に臻湊される。祈奏へ複縦線を引くための夜飼として、笹舟上のアルナイルが受影したらしい。ラムとブランデーの馥りがする。でも、溶けるよ。まだ水中になるからと言って、飼い葉桶のあたりで翻翔していた魚から藁屑が電赫して降り落ちる。黝い夜刻が釣られて液状に垂下し、落影の海際へ思いがけず逢着する。波を瞻て、そうではなくて、非常階段の裏を振り仰ぐ。どこからどこまで、いつからいつまでも牴牾している中で砂を鳴かせる。波間の返景に靡然と景曜する数珠掛鳩たちの一羽へ触れた。翅翼が燭台蛋白光の欠片の寄せ集めで、指を切って涯涘の晶星へ明け渡した。匣裏があり、纏裹があり、装捏がある。金魚の生け擒られたアンバーが、瓶手翰を思わせる浮流で残照になる。沙頭で大理石状の夕霧が靚装する木犀は、校庭の鷲の尾桜だ。髪座を巳つ編みしたような吹き流しで飾りつけられてはいるものの、この深度へ曁るまでに耿光の宿りは杳乎に微睡む。全世界でも多世界でも自世界でも長世界でも短世界でも実世界でも虚世界でも環世界でも旧世界でも真世界でも偽世界でも間世界でも脱世界でも亜世界でも既世界でも未世界でも前世界でも現世界でも来世界でも元世界でも半世界でも反世界でも非世界でも無世界でも不世界でも軽世界でも重世界でも単世界でも複世界でも縦世界でも横世界でも加世界でも被世界でも。何より祈むことを望懸していたと足元の沾渥が傍証する、そんな迴光から醒めていく。
残光から面影を㤂き立てるように、惺かに明り取りが点いた。私から見て水平な線上のどちらにも控えたガラスロッド風の円柱から扇面が、翻身する方向へ傾きながら舒翼した。順繰りに、明り窓のある中心下で半透明な乳白色の円錐が顕現する。円盤状の方解石が対称軸上に静臥して浮泛した。先生は天使の通称で呼ばれているあの天文台を、ジョン・ヒルの星座まで視えるという観望ごと私物化している。展翅板に刺されたような草莽を、夜風がADGCの絃にした。星野光よりもイリデッセンスの余滴が飄袖する。皆既蝕の月下で、六星の匙抄が流景になる。
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