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扉坂由翡
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生まれて初めて形骸を盗んだ。たとえば煙火を腹背の蝉声から抉り奪えるなら、こんな選択は考えなかったと思う。躰が躰以外の形になっても、見えないものを見ることができたなら、物質に誰かを見出すこともなかったはずだ。鞄に隠されている秘密は明らかに後ろめたく、目線以外のものでさえも婉曲的な弾劾に感じられた。絵画の様に車窓を飾る、腑を押し拡げて蕩かしたような色彩の漂流も一つの強迫と映った。
どこからが知らないことで、どこまでを知ることができるのか、形骸は思考しない。落ちていることが分かるのに受け止められないことも、終わっていくさまがずっと見えるのに引き戻せないことも一つ残らずありえなくなればいい、ありふれることをやめればいい。赦されないと思い詰めることも不可能だと決めてしまうことも誓願ではなく問いの棄却で、決定的な断面から目を背けていた。代わりが存在しないものなんて数え切れないのに、傷口から何を始めても塞がってしまう。あるいは傷以外の何もかも、復号を意図しながら錯綜して閉塞し続ける。その延伸の途次、箒木を蜃気に還して傷創の在処は欠け落ちる。
あらゆる疑問が一瀉へ収束してからは、どんな巡り合わせも至善だと思えた。
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