第36話

「弥勒、どうでしたか? 実際のお釈迦さまは……?」


「はい、かなりの迫力がありました。修行僧のフリをして対応するのにやっとの思いでしたよ」


 観世音菩薩の化身である人の姿を取られていた女性はそう……と呟いた。


「あれだけの体験をした後のことですからね、かなりの迫力はあったことでしょう。ふふふ、あの菩薩もかなりこたえたでしょうね。私があの四人の姿を取り、神々のフリをしていたのですからね」


「意地が悪いですよ……観音様」


「では弥勒……新しい修行を申し付けます。あの菩薩に付いていって修行をさせて貰いなさい」


「冗談でしょう!?」


 いきなり何を言いだすんだ……と、心の悲鳴が飛び出すような勢いで僕は咄嗟に叫んでしまった。


「あなたが今まで体験したことをこっそりと菩薩に教えて差し上げるのです。いいですか? 無礼な真似は決してないように……いいですね?」


 はい……と頷いた僕は、ああ、やはり苦行が始まってしまうのか……とげんなりした様子でただ項垂れてしまっていた。


「あのね、ステーキじゃないんですから……そんなげんなりしてはいけませんよ? ふふふ」


「ああ、ステーキって素敵ですね。えへへ……でも肉って仏教徒は食べられないしなあ」


「……」


 冗談を言っていられるのも今のうちかも知れない。これからは真面目にやっていかないと……。そうお釈迦さまが出家を決意された様に自分も頑張らなくては……と思う僕なのであった。


「しかし具体的に修行に着いて行くと言っても僕は何をすればよろしいのでしょうか?」


「弥勒、少しは自分で考えることです。これから辛い修行が待っているんですからね。では私と千佳は各々修行を開始します……ミロク、精進しなさいよ」


 そうして観音様は僕の前から姿を消した。


 ……。


 まいった。これからどうしよう……。


「とりあえず、お釈迦さまが王宮から抜け出すのを待ってタイミングを合わせるしかないな……」


 ……。


 ーーカピラバストゥ城内にて。


「チャンナ……私を王宮の外に出して貰えないだろうか」


「何を考えているのか私にはわかります。王子……私を困らせないでください」


「チャンナ……私と君はよい友人であった。これからもこれを私と思い、持っていて欲しい。これが決意の証だ」


 そうして王子は髪を剃った。


「これをヤショーダラに……ラーフラにもよくしてやって欲しい……チャンナ、それではな」


「そんなのあんまりでございますよ……」


「チャンナ、泣くな! それでは達者でな」


 そうして私は王宮の外に出た。


 (最早、私には、何もなくなってしまった……これからは私一人で何でもやっていかなくてはならない、そうだ。あの修行僧に付いて行くことにしよう! 色々教えて貰い、修行をこの身に体験するのだ!)


 ……。


 (ミロク……お釈迦さまがあなたの方に行こうとしています。よくお世話してあげるのですよ。私の通信はこれでお終いです)


 (……ミロク、精進しなさいよ)


 ?


 ……何やら観音様の声がするのであった。

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