弥勒苦行編
第34話
紀元前、五〜四世紀頃。
これは、今から二千五百年ほど前に、実際にあった仏教のお話です……。
マーヤー夫人というお釈迦さまの生母に、白い象が自分のお腹の中に入り込むという不思議な夢を見たのちに受胎され、七日目に亡くなられましたが、誕生された王子はシッダールタと名付けられ、次の王として期待されました。
天上天下唯我独尊……。
生まれてすぐに立って七歩歩まれ、そう告げられたシッダールタ王子は十六歳になるまで幸せに暮らしていました……。
天上天下唯我独尊とは宇宙で私よりも尊いものはいないという意味です。
または、天上天下にただ一人の、誰とも代わることのできない人間として生まれた私は、特別に尊いのだという意味です。
どちらの意味が正しいのでしょうか……?
それはこれからの物語で私と一緒に探していくことに致しましょう。
ーー王宮での王子の様子……。
「シッダールタ王子! そんなことでは次の王として国を立派に治められませんよ!」
「なぜ、私にそんなに期待をするのか!」
……なぜ。
「王子、私があなたに対して期待をしているのは、あなたが王として立派に国を治めるのをお見守りするためなの!」
……なぜ皆が、私の何に対してそんなに期待をしているのか。
「私は王になどなりたくはないのです。第一、母上……」
「はい?」
「どうせいつかは死んでしまうのに王になどなっても面白くないと思いませんか?」
「な!? そんなことでは……」
「この世で快楽を味わっても一時の栄光だと思いませんか? それはとても虚しいことではありませんか?」
「こんなことを言われるからには、あなたにはこれからの生をどう歩まれるおつもりなのです?」
「それは……」
それはわからない……ただ本当にこんなことでいいのだろうか。人生というものはもっと他に目的があるのだからこそ、生まれたのではないのだろうか?
ああ、困った……。私の人生は私のものだというのに。
……人生とはなんと儚いのだろう。
「ほらご覧なさい。あなたには次の王として立派になって貰わなくては困るのです」
「母上、しかし!」
「難しいことを考えるよりもちゃんと学問と武芸に専念してくださいませ」
「はい……」
……私はいつも考えていた。生きるとは何か、死ぬとは何なのか。老いとは何なのか?病とは何なのか?
……この四つがある限り人生というのはとても虚しくなるものなのだ。
何かそれを解決できるものがないのならば、私は王になどなりたくはなかった。
「……生老病死」
この四つが人間の欠点なのではないのだろうか?人間は神々よりも劣った存在なのだろうか……?
「私は……」
「私は死にたくない……」
……。
「マハー。どう思う? 君から見てあの子の言動は……」
「賢すぎるんでしょうね。物事の本質を捉える力はもの凄いわ。でも……」
「考えすぎてしまうのか……」
それがあの子の欠点でもあり長所でもあるのね……そう言いかけてマハーは話すのを辞めた。
「困ったものだ。あの子にはもう、結婚させてしまうというのはどうだろうか?」
「あの歳で??」
「今時、学生結婚は珍しいことではないだろう。あの子にはもっと人生を楽しんで欲しいのだ」
……そうやってあの子を引き止めようとしているのね。
「心配ない、きっと、うまくいくさ」
そうしてシッダールタは、十六歳で結婚をすることとなる。
お相手はヤショーダラという国一番の美しい娘だった。
そうして王子は何不自由なくしばらく、幸せに過ごすこととなった。
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