第21話
なんかとんとん拍子に話が進んでしまったな。これでよかったのだろうか。
「ミロク、上杉謙信が出家するという話は史実なのか?」
「いや、史実ではないよ。どうやら僕が戦国時代に来たことで歴史が大きく変わってしまったみたいだ」
「これからどうするんだ?」
ほんと、これからどうすればいいんだろう。チカが心配して来る。最もな話だ。戦国時代に来て僕は何をすればいいんだろうか。本では第六天魔王を倒すようなことが書いてあったが、第六天魔王とは信長のことか?しかし、倒すって言ったって出家の身となってどう倒せばいいというのか。
第六天魔王とは第六天に住む魔王のことだ。仏教において、仏道修行を妨げている魔を指していて当時、お釈迦様が悟りを開く前に現れて苦しめたとされる。別名、魔王波旬と言われている。
仏教における三界(無色界、色界、欲界)のうち欲界の最高位が第六天であり、天主である第六天魔王が住家としている。この時代、織田信長が第六天魔王と自称していたのだ。よって仏敵とされ、上杉謙信には忌み嫌われたらしい。
だがどちらにしろ、まだ尾張は平定されていないから信長の名は挙がってきていない。もう少し後の時代のお話だ。
なんにせよチカだけは何があっても絶対守り抜かないと。僕はそう思った。
「大丈夫、君のことだけは絶対に僕が守るよ」
「はいはい、わかったから。とっととその第六天魔王やらを倒しちまおうぜ。変な冗談言ってんな、ミロク」
ほんの少しチカが照れた顔を見せたような気がするが多分気のせいだろう。
「とりあえず、各国を流浪しよう。謙信がいてくれるんだから百人力さ。どこにでも行ける。この時代の様子を見て回ろうぜ」
おうと、チカは少し安心したのかいつもの元気を取り戻す。やはり慣れない時代に来て不安だったのだろう。路銀の心配をしなくていいというのはありがたい。え、もしかしてこの時代のお金は使い放題なのか?おっと、よだれが……。
とりあえず、信濃は避けて、第六天魔王といわれた信長が住む尾張へ行ってみよう。そこからいろんなお寺を巡ってみよう。
……。
尾張、清洲城。
「俺は何のために生まれたのか」
信長は細い木の上に登って柿を齧っていた。誰もいないこの時間だけが俺の心を癒してくれる。誰とも会いたくなどない。俺は一人が好きである。
本当にくだらない。
この戦国の世にまさに天下取りとなるため生まれたのだろうか。
親父殿は俺のことをよく可愛がってくれるが下のものは俺のことを全く分かってはくれない。この俺の心を分かってくれる者は俺だけよ。
うつけのフリをしないといけないのは誰も俺のことを理解できないからだ。
誰か俺のことを理解できるやつがいたとしたらそれは天下を納められる気概を持ったものであろう。
全くこの世はくだらない。
こんな世に生まれ出でたならば。
天下を取るためならばこの身を魔に落としたとしても。
「この天下に俺の名を知らしめてやる」
--。
信長が天下を取るだろう……。奴ほどの覇気を備え、今の世をよく見据えている武将はそうはいない……。うつけのフリをしているが、それは誰も奴のことを分かってやれない表れからきている。ここは信長を見守るとするか……この世を第六天の色に染めてやるのだ。
これで天下は俺のものだ。
ハハハ、ハハハ、ハハハ。
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