第8話

 家に帰るとお母さんが自分の格好に目を丸くしていたが何も言わずにご飯を食べなさいと言ってきた。


 完全に呆れられてるな。


 でもこの展開は予想してなかった、てっきり怒るなり、叱るなりしてくると思ったのに。


 ……まあ、いいか。明日のミッションを達成するにはこれは必須なんだよ、お母さん。分かっておくれよ。


 僕は明日、慣れない学校に行く為に早めに休むことにするのだった。


 ……。


 タイムリープして第二日目。


 僕は意気揚々と玄関のドアを開ける。行ってきまーす、と母親に元気なことをアピールした。


 不登校になるよりマシなんだよ、お母さん。分かっておくれよ。


 足取りも羽のように軽く感じ、ランランランと鼻歌を歌いながら学校へと向かう。


 さて、一体どの様なことになるのか。


 髪を染めていることを先生に怒られるのは目に見えていたが、不良のクラスメイトも染めている人はいる。僕だけが例外ではないのだ。


 どんな事件を起こそうかなーと僕は内心にやにやとしていたのだった。


「おはようー!」


 僕は教室のドアをガラリと開けた。


「……ミロク」

 

 お、お前ってやつは……という様な好奇な視線で教室中から見られる。


 一体、何があった!? という声が聴こえて来そうなのである。


「まあ、聞いてくれよ。昨日テレビで、ある芸能人の髪型がメッチャ格好良くってさあ、つい真似したくなっちゃった、テヘ。これからはジャニーズブームが来ると思って間違いないぜ?」


 女子からあー、分かる、分かると言った声が聴こえて来た。


「でもさあ、ミロク。いきなりそんなイメージチェンジしちゃって大丈夫なの? 先生に怒られるんじゃないの?」


「あー、大丈夫、大丈夫。何とかノリで乗り切って見せるから!」


 僕だってこんな挨拶は二度とごめんなのである。本当に中学生という生き物は第一印象が恐ろしく大切である。この様な挨拶をした同級生も大体翌日には、みんな大人しくしているのだ。このことについてはみんな共通していて同じなのだ。


 だがフォローはしておかなくてはならない。


「実はさ、知り合いの年上の人がバンドをやっていてさ。それに参加することになったんだよね。まあ、最初はベースかドラムでもやってみようかなって。声が中々良いらしくて、才能があるんじゃないかなって言われた」


 こういう中学生にとって知り合いに年上の存在がいるというのは影響力が大きく特にバンドなんかやってる人というのは中々に箔が付く。昔から学校ではこういうポジションが一番じゃないのかなと思っていたのだが……。思惑は的中した。


「マジで!? おまえ、バンドなんかやんの?」

 

 すごーいという声が聴こえて来た。


「だから雰囲気も変わったんだね、恰好を変えたのもバンドの影響があるんだね!」

 

 クラス中から賞賛の声が聴こえて来た。不良のクラスメイト達もこれにはぐうの音も出なくなったらしく、沈黙せざるを得なくなった。


 ……勝った。


 これでいいのだ。


 僕は成し遂げたのだ。


 あー、怖かった……。


 中学時代においてはこういう印象をクラスメイトに最初に与えておくということが何より大事なのである。


 少なくとも、これでクラスメイトから馬鹿にはされなくなるであろう。


 明日からは真面目で大人しい弥勒に戻ろう……そう決意したのだった。


 ……ギターくらいは買っておくか。僕は静かに余計なことを考えるのであった。

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