第7話

「お母さん、ただいま」


 僕は久しぶりの学校登校に神経を使ったのかベッドにすぐ横になった。


 ……学校ってあんな感じだったかな。もっとレベルが低いものかと思っていたんだけどな。


 いや、たまたま、あの小説オタクが気になっただけなんだ、きっとそうなんだ。


「くっそー」


 今日は急で作戦をちゃんと考えられなかったんだ、明日は完璧な作戦を立てて行くことにしよう。


 そうだなあ、まず格好からがダサい。部屋の中の私服をパッと見回してみたけれど、こういうのだと地味すぎるものばかりだよなあ。


 僕ってこんなにセンスが無かったのか。


 明日は、私服登校だ。髪の色も若干変えて完全武装して行って来よう。


 貯金は……少しだけならあるな、ここは一つお母さんにねだってみるか。腰を低くしてと……。


「お母さん、ちょっとお小遣いがほしい」


 お母さんは、またか……という表情をしている。当時、お小遣いをねだるのは日常茶飯事だった。買い物をすることでストレスを発散していたのだろう。中学生にしてはお金遣いは荒い様だった。


「いくらほしいの?」


 僕は顔を気まずそうにして言った。


「ちょっと……二万円くらい」


 子供がねだるような金額では無かった。お母さんはビックリした様子で言った。


「何に使うの、そんなに! 最近無駄遣いが多いわよ、新学期が始まったんだし、もっとちゃんとしないと!」


 当然の反応だよな……金銭感覚がちょっと違っているのだろうか、今と昔の金の感覚が分からない、その今が昔なんだけれども……。


「いや、その新学期が始まったから色々と必要なんだよ、髪だって整えなくちゃならないし、私服だって春物がほしいんだからさ……」


 お願いします!と言った表情でお辞儀をする様にして頼む。中学三年生になると色々と入用な物があるのです。子供の世界も複雑なのです。


 なんとか三十分の交渉の末に二万円をゲットした。


 ふふふ……さて、早速、出かけるぞ!


 僕は一般的な地元の洋服店は避けて、迷うことなく駅に向かい切符を買い、原宿方面へと出かけた。


「これで完璧だ」


 当時は髪の色も染めている人も少なくて随分と地味だったんだなあ、駅前もまだ、映画館なんかも建ってなかったらしい。人通りが少ないや……。


 久しぶりの地元の電車に揺られて僕は窓の外を眺めていた。


 しばらくして山手線に乗り換え、数十分もするうちに目的の駅へと辿り着いた。


「何から揃えようかな……」


 しかし、当時にこんな所に来てたらきっと、お釈迦様から速攻でカミナリだったろうな。でも今回は許可を貰った上で来ているのだ。さてぶらつくかな。


 僕はサングラスをして、なるべく目立たないようにして歩き、安くて一番センスがありそうなショップに侵入した。


「ここがいいな」


 僕は店内で服を物色しながら、中学生向きでファッション雑誌で紹介されているパーカーとジーパンを選んで、レジへと向かった。ついでにリングも買っておこう……。


「ありがとうございました」


 さて、次に向かうのは美容院だ。これもセンスが高そうな所を選ぼう。いやこの辺だと全部センス高いからどこでもいいかな。


 僕はしばらく街をうろついて美容院へと潜入することに成功した。


「ぼくってまだ中学生なんじゃない? 染めたりして大丈夫なの?」


 すると案の定、店員が僕の外見を見て、問い直してくる。


「あー、大丈夫なんですよ。僕って部活で演劇部なんです。役柄的に今度、主役を任されてしまって、ちょっと外見を派手にしなければいけないんです……先生も承諾済みです!」


 大丈夫!という様な顔をして僕は自信満々に答えた。


「そう?それならいいけど……じゃ、カットしていくよ?」


 当時の最新の技術でカットされたあと、カラーリングをしてレジにてお金を払い、店を出た。

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