第一章 エピソード4 〜『テル』〜
日が傾き、青一色だった空もオレンジに彩る。
チャリ丸に乗っているからだろうか、アレ以降あのカマキリの様な巨大生物は現れることはなかった。それにしてもチャリ丸は本当に早い。まるで、風と共に駆け抜けているようにさえ錯覚する。正確には分からないが、体感では時速三十キロメートルほどの速度で走っていると思う。
ーーこの世界へ来て、チャリ丸の様な巨大生物の存在に面食らってしまった。あんなに巨大化した生き物は見た事がない。と言うのも巨大化は生物として不利な点しかないため、進化の過程で排除されるか絶滅するかな二択だ。
まず、消費エネルギーが多すぎるため、
(地球では寒冷地に暮らす生き物…例えばシロクマやマンモスは巨大ではあったが、それは寒さが起因する。そして寒さ故、天敵が少ないからである。)
他の生物よりも「エネルギー摂取を必要としてる」上、「襲われやすい」となるとなかなか生きづらいのではないかと考える。マンモスの絶滅がいい例だ。もしかすると、胸の宝玉に何か関係あるのだろうか…。
次に、チャリ丸が纏っていた電気エネルギーだ。地球ではまずありえない。もふもふしてる時に確認させてもらったのだが、電気鰻に見られる発電器官や放電器官の様なものがあるわけでもなく、身体の大きさと胸の宝玉以外は本当にただの柴犬だった。
チャリ丸にライドしていると、様々な生き物を見ることができたが、どれも知っている物ばかりであった。例えばカラス。先ほどから聞こえる鳴き声はハシボソガラス。田舎とかによく見られる細身の賢いカラスだ。彼らは、現代の大きさとさほど変わらず特殊な力も発していかった。巨大化の原因と力の発現には因果関係があるのだろうか。それとも…。
しばらく考えに耽っている内に、村から少し離れたところに到着した。チャリ丸に降ろして貰い、礼を言って森へ帰した。
少し寂しそうにしていたチャリ丸には申し訳ないが、さすがにこの大きさの野犬が村に入ってきたら、村人もたまったもんじゃないだろう。
さて、10分ほど歩いて村の入り口までついた。
遠目で観察したところ、少し村の様子がわかった。
村は少し高台にあり、三段構造になっていた。推測でしかないが、上段から食料倉庫、中段は有力者の自宅、下段に一般の村人、最前線に戦士の詰め所であろう。さらに周囲を観察すると、村は三つの川に囲まれていた。村の背部に川の本流が流れており、本流に対して、二ヵ所枝分かれしているところがある。
(…これは用水路か?)
分岐した川は決して大きなものではなく、明らかに人の手で溝を掘り村の周りに流れるようした人工の堀である。川は本流とそこから引いてきた人工の堀で、村を囲うように、大きく三角形を作っていた。
(なるほど、背部の川とサイドの堀で結んだ三角の頂点が村の入り口か…。
入り口を狭くして外敵の侵入を防いでるな。)
堀は村の入り口であろう門の前で繋がることで、村を完全に水で囲っている。川と接する部分は丸太の柵で埋め尽くされており、村の正面には五メートルはあろうかという大きな門がある。その向こう側に見張り用であろうか、二つの
やはり俺の推測通りこの村の文明レベルは低い。だが、原始人という訳でもなさそうだ。現代から見た場合、少なくとも二千年は遅れている。そして、村の作りがあまりにも弥生時代の
日本語が通用する事を願う…。人様の村に無断で入るわけにもいかず門の前で尋ねる。
「ごめん下さーい。私は日本国・埼玉よりまいりました五十海と申します。娘を探して旅をしております。こちらに、娘は伺ってないでしょうか?」
ファーストコンタクトだ、礼を尽くさねば。
「…」
返事はない。
返事の代わりに村の中からカーンカーンカーンと鉄と鉄が打ち合う音が聞こえた。嫌な予感がする。あれは…、警報音ではないだろうか…。中から人々の騒ぎ音が聞こえた。そして、二つの櫓に人が二人づつ登っていく。頂上に着いたかと思えば、弓を引いて何かを叫んでいる。
「☆2>○…!!、#0$〆6☆!!」
何を言っているか毛ほどもわからなかった。知らない言語。だがそれよりも俺の興味を引いたのが…。
(ほぅ、弓があるのか!鉄の音といい矢の
矢は俺に向けられている。が、文明レベルの特定の方が唆るのだ。というか、男の浪漫ではないか。未開の地に訪れるこのワクワク感。創作のアイディアが溢れる。
俺はその場に座り込み考え込む。
兵士らしき男たちは何やら叫んでいるが、伝わらないのでどうしようもない。
俺は立ち上がり、ややオーバー気味のジェスチャーで疎通を図ろうとした。
「えー、私は…五十海。私の娘、探してる」
伝わってるかどうかは謎だ。
「☆2>○…!!、#0$〆6☆!!」
またさっきと同じ言葉のようだ。だが分からない。
俺に敵意が無い事を伝えよう。
俺は手に持っていた買い物袋と背負っていたリュックを床に置いて万歳のポーズをした。さらにTシャツとズボンも脱ぎパンツ一丁になり、続ける。
「敵意はない!娘を探している!」
櫓の上で兵士たちが何やら話し込んでいるのが見えた。好感触のようだ。
この調子で開門をしてもらおう。
「ここ、開けてくれ。私、腹が減った。」
跳ね橋を指さした後、自分のお腹をさすった。
すると、櫓の兵士たちの顔が見る見るうちに真っ青になった。
次の瞬間!!
スッ!!シュッ!!…ドゴォ!!
「!?」
俺の横を何か霞めた。なんと矢が放たれたのだ。
それに目に見えないほどの速度で地面に吸い込まれていった。地面に到達して初めて俺は「撃たれた」ことに気が付いた。しかし妙だ。一般的な矢は着地時、トスと音がするはずだが、先ほどの矢はドゴォと鈍い音がしたのだ。また、砲丸の弾ではないはずなのに地面の抉れ方が異常だった。矢の着地点を中心に小さなクレータが出来ている。一撃目を皮切りに櫓の方で四つ、ほんのりと緑色の光が集積する。
すると…。
シュッ!!…ドゴォ!!ドゴォ!!
間髪入れずに二本目、三本目が地面にめり込む。
「うわあああああああああ!!やめろおおおお!!」
俺は戸惑ったが、すぐさま服と荷物を拾い集め急いで門から離れる。木や岩を陰にしながら村を後にするがその間にも矢の雨が降り注いだ。
突然攻撃してきたときは驚いたが、最も脅かされたのはその威力。盾にしていた木や岩をバコォと音を立てて粉砕していったからである。
(たかが矢に、あの威力かよ…。)
三十分は走っただろうか、まだ服を着る気が起きない。止まったら当てられそうな気がしてならない。日はすっかり沈み、虫の声と共に夜の冷え込みが強くなる。
今日はなんて一日だろうか…。莉咲を失って、チャリ丸に命を狙われて、人を求めて一日中移動して、やっと見つけた村で、村人にも命を狙われて。こんなにも最悪な日があるだろうか。
俺は手ごろな木を見つけてもたれかかる。近くに水の音が聞こえた。服を着てその場に座り込む。どうやら、川下の方に逃げていたようだ。
グーと腹が鳴った。
「そういえば今日俺、まだ何も食ってなかったなぁ。」
手に持っていた買い物袋もどこかで落としてしまった。食材もなく喉も乾いた。水分はこの川で補給するとして、問題は食事だ。こんな生活が続いたら俺はきっとこのまま死んでしまう…。何度死ぬ思いをしたら、この苦しみが終わるのだろうか。…いっそ……。ふと頭に嫌な考えがよぎる。俺はカバンの十徳ナイフを取り出す。
「十徳ナイフじゃなぁ…」
目の前に投げた。わさっと茂みの中に落ちる音がして、辺り一面に蛍のような光が飛び出た。なんと神秘的で美しい光景だろうか。その光はほんのりオレンジ色で、どんどん数を増していく。そして、あたりを照らすほど光が集まったところで、それが一点に集積する。オレンジの光の小さな塊が、光度を増しながら俺の前でフワフワと漂う。
俺は無意識に両手でその光の足場を作ると、光はゆっくりと俺の手の中に納まった。手の中がほんのり暖かい。
そして、輝く「それ」からウフフ、アハハハと子供の笑い声のような声が聞こえた。
だが実際は聞こえたというより、聞こえた「気がした」のだ。
「どうして泣いてるの?」
頭の中で響くその問に、返事をした。
「泣いてなんかないさ。ただ、大切なものを失いすぎてね…。少し疲れたんだ。」
すると、輝く「それ」も少し寂しそうにした気がした。そして、優しく光った。
「そうなんだ…。でも君の心は、ずっと泣いてたよ。苦しかったんだね。」
目頭に熱を帯びていく感じがした。今日だけで何度も死ぬ思いをして、しまいには自暴自棄で一瞬とはいえ、自から命を絶つ選択肢がでた事に絶望していた。だが、この輝く「何か」が俺の心をほぐそうとしている、分かろうとしていることが本当にうれしかった。
「うん…。すごく辛かった。自分の娘も守れなくて…、情けなかった。」
俺は心に触れられたような気がした。
得体の知れない輝く「それ」になら、心の弱みを見せてもいい。そんな気がした。
「そうだったんだね。僕に何かできることはあるかい?」
輝く「それ」はそういうと、うつむく俺の顔を覗き込むように近寄る。
「…ありがとう。でも、大丈夫。その気持ちだけもらっておくよ。話を聞いてくれてありがとうな、おかげで少し気が楽になったよ。」
気を使ってくれている「それ」の気持ちが素直にうれしかった。だから、これ以上気を使わせないためにも俺は自分の精一杯の笑顔を作り、「それ」に見せた。
「ほんと?それならよかったぁ。…君はなんだかいい人の色がする。」
「色?ふふ、なんだそれ。」
「とにかく、君に僕から贈り物をしよう。」
突然の申し出に戸惑いつつも、確かな心遣いを感じる。
「じゃあ、少し目をとじて。」
輝く「それ」の言うとおりに目を閉じる。
すると輝く「それ」は俺の額に近づき俺の中に入っていく。
目を閉じているはずの俺の目の前に一面の花畑が見えた。次に場面が変わり聳え立つ巨大な連峰が映る。次にこの世界のだろうか…見たことのない島?国?の全体を上空から見せられた。最後にどこかの山の頂上に場面が映り、そこに先ほどの光が現れる。
「ここから見えるこの土地ぜーーんぶ、君にあげる。」
「どういうことだ?」
目の前に次々と現れた光景に戸惑う俺にフフと無邪気な子供のように笑いかける。
「僕は土のギーア。この星を支える力持ちさ!僕の支えるこの土地を君も分けてあげる。」
自分が何を言われているのか字義的な理解しているが、何が言いたいのか理解できなかった。
「それはつまり、どういうことだい?」
「もー、鈍いな。僕が司る土の力を君にも使わせてあげるってこと。だから、今から言う言葉を絶対忘れないでね。初心者の君に教えてあげるのはコレだよ。まずは僕を強くイメージして…。そして唱える。『*@』と。…いずれ君がもーっとマギーアに耐えられるようになったら、他にも教えてあげる。」
唱える言葉は耳では聞こえなかったが、心で感じた。そして、山の頂上のような景色が遠ざかり暗闇になる。俺はゆっくりと目を開くと、そこには輝く「それ」…土のギーアはいなかった。
俺は言われた事を思い出すようにして土のギーアを強くイメージ。目の前の川に向かって片方の手のひらを突き出し一言。
『テル』
ズドギョオオオオオオオオン!!ゴゴゴゴゴゴゴゴゴ!!
突如川の中から三本、槍のように地面が円錐に伸びて天を突いた。槍の中腹にはそれぞれ一匹ずつ魚が刺さっていた。
水しぶきで水面には波紋が走り、写っていた月は乱れた。
そして、俺はドッと疲れてその場に倒れた。
☻
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
ここまで読んでいただき、ありがとうございます。
いかがだったでしょうか?
Twitterでサルグ・ゼルムキャラクターのビジュアルデザインをアップしてます!よかったらみてって下さい!
よかったら次回も、読んでみてください!
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます