第7話 コカ栽培は医療用のため?

 畑を焼き、工場を焼いてしまったことから考えても、火の神ウラカンは自分の土地を汚す行為、麻薬栽培が逆鱗に触れてしまったのだろうということは何となく分かった。


 それを止めれば暴走は止まるのではないのだろうか?そんな考えが浮かび上がってきた。


「う、う、こ、ここはどこだ?」


 考え事をしながら荷台を引いてしばらく進んでいると、一人の大柄な青年が目を覚ましたようで声を上げながら身体を起こしてきた。


 あの崩れ落ちる壁から身を呈し、少女を救おうとした青年だ。


 状況を把握しきれてないようで頭を振ったり、叩いたりしている。


「大丈夫か?」


 そう声をかけてみた。


「エイミーは?エイミーはどうなった?エイミーは無事なのか?」


 急に声を荒げそう言ってきた。意識がはっきりし、現状を思い出したのだろうか?


 エイミー?守ろうとしていた少女のことか?


「向かい側をよく見てみろ」


 俺の言葉を受け目の前に目を凝らす、そこでスヤスヤと寝ている少女とご老人の姿を確認すると安堵した表情へと変わった。


「良かったー」


 その姿を見た青年は安心したようで、体の力を抜いて荷台の縁に身を預ける。


「あー、身体中がいってーっ!痛い?痛いってことはあれは夢じゃなかったってことか?」


 夢?


 青年は痛い箇所を摩った後、髪の毛をグシャクシャに掻き上げると一点を見つめボーッとし出した。


 普通の人間が炎人を見たのであれば、嫌な夢だったと思いたくもなるか。


「なー、あれなんだったんだ?」


「俺にも分からん」


 そう言っておくことにした。


「だよなー、あんなの説明できるヤツ、いる訳ないよなー」


 意外とすんなり納得してくれたな。


「あの炎みたいな人間は何だったんだよ?絶対悪夢かなんかだったよな?」


「そうだな、そうであって欲しいな」


「そういえばお前、体格の割に随分力あるんだな、重いだろ、俺が変わってやるよ」


 子供の俺が荷台を引いているのを気遣い立ち上がろうとするが、身体中に痛みが走ったのか顔を歪め蹲った。


「イテテテ、、」


「ふっ、問題ない心配するな。今はそこで身体を回復させておけ。回復したらまた誰かを助けられる」


「そうだな、すまない、どうやらお前に助けられたみたいだな。くっそー、身体が丈夫なのだけは自信があったんだけどなー、肝心な時役立たずか」


「お前は随分人のために頑張っていただろ。あんな化け物相手によくやっていたよ。俺なんかより全然頑張ってた」


「そうかー?まああんなの相手だったからな、まあ頑張ったか。それよりお前、ずいぶん綺麗な身なりしてるな。中央区の出身か?」


 この街は中央に役所など街の運営を決めている部署が集まっており、その周りに産業区、その周りに田畑が広がっている。


 つまり中央に住んでる者ほど資産家の家が多いことになる。


 俺がどう返答していいか困っていると、、。


「あーあ。畑焼けちまったなー」


 俺の返答など端から待っていなかったようだ。自分の話をドンドン進めるタイプのようだ。


「あれはお前の畑か?畑で何を育てていたのか知っているのか?」


「なんだよお前!俺達が苦労して農産業を支えているっつーのに、俺達のやってること全然知らないんだな。ちょっとは貧乏人がどうやって暮らしているのかとか興味もてよ」


 俺が資産家の住人という設定は続いているようだ。このまま否定せずその設定でいようと思った。


「コカの木だよ」


「コカの木って麻薬の原料になるコカの木か?」


 やはりここの住人は麻薬の原料になるコカの木と知って育てていたようだ。なら神罰を甘んじて受けるしかないのかもしれない。


「麻薬?あー、悪用すればそうなのかもしれないが、ここで育てられているコカの葉からはより強力な局所麻酔作用が得られるらしくて、医療用として重宝されているって話だぜ」


 医療用?


「役所に無事手術を受けることができましたってお礼状が世界中から届いてるぜ。それくらいなら知ってんだろ」


 もしその話が本当ならここの住人は知らないまま悪の道に加担しているということになる。


 神罰を免れられるかもしれない。


 諸外国にもそう言って誤魔化していたのだろうか?





「おーい!おーい!」


 しばらくそのまま進んでいると数人の消防士が駆け寄ってきた。


「お前凄いな!」


 凄い?何のことを言っているのだろうか?


 そんなことを言いながら消防士は荷台にいる人達を見渡した後、俺に向かって驚いたような表情を向けてきた。


「西端地区の逃げ遅れたと思われる十数名の安否確認」


 無線を使いそんな事を言い出す。


「お前ホント凄いぞ!これは表彰だけじゃすまないことだぞ!」


 何を興奮して言っているのか全く分からなかった。


 ふと気付くと、今まで荷車を引いていた少年の姿は消えていて、荷台に横になっていたはずの俺が荷車を引いている位置に立っていた。


 ???


 そして、俺が荷台に乗っている人達全員を助けたことになっている。彼らはそう言って俺を讃てくれていたようだ。


 何が何だかさっぱり分からない。


 俺は白昼夢でも見ていたのだろうか?


 今、俺、少年と話していたよな?


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