第5話 火元の化け物
「火事だー、また大火事が起こったぞー」
その日の奉仕活動を終え、自分のベットで消防士になるための勉強をしようと思っていたその時だった。
けたたましく響いてきた声がことの緊急さを伝えていた。
「今すぐ動けるものは移動車に迎えー」
俺は飛び起きて駐車場へと走った。仲間も飛び出てきた。
「また火事か?一体どうなってんだこの街は?」
そんなの俺に聞かれても困る。俺達のやるべきことは被害を最小限に食い止めることだ。
仲間と共に取るものも取らず移動車に向かった。まあ囚人の俺達に防護服など支給される訳もないから手荷物なんてスコップくらいなのだが。
移動車に乗り込むと既に多くの者達が乗り込んでいた。全員凶悪犯だ。でも全員、人から感謝されるのが心地よいと感じるようになってしまっていた。命知らずなバカなヤツ等だ。
俺と同じになったバカな奴等だ。
「よし、出発するぞー」
車に目一杯乗り込んだことを確認すると1台目が直ぐに出発する。そして2台目も直ぐにいっぱいになっているようだった。
これから危険な現場に何の装備もなく行かなくてはならないのに、我が身を顧みない大バカな奴等ばっかりだ。
「応援願う、応援願う、炎は田畑を焼き払い、既に住宅街に到達!勢いは止まりません」
「うわー、なんだコイツらー!助けてくれー」
なんだ?今の声は?
応援を要請する無線から奇妙な声が聞こえてきた?コイツ等?なんか暴徒みたいなのが出たのだろうか?
それとも火事場泥棒みたいなヤツが出たのだろうか?
「おい!見えてきたぞ!」
見えてきた光景に絶句してしまった。
収穫間近になっていた畑が焼き払われていたのだ。しかも不思議なことに畑だけを焼き払われているような様子だったのだ。周辺の木々には何の影響もないようなのだ。
まるで火炎放射器でそこだけを焼き払った、そんな印象を受けるような状態になっていた。
「畑はもうダメだな」
運転手はそんな声をあげて方向転換すると住宅街の方へと車を走らせた。
住宅街からもあちこちから火の手が上がっている。
「一体どうなってんだよこれ?」
これまた不思議な光景だった。一箇所から燃え広がっているのではなく、火の手は複数箇所から、火の気の全くない箇所から急に上がっているようだった。
人々は火の手が上がった場所を消火し、また別の場所の消火をするを繰り返しているようだった。
火の粉が飛んで延焼が広がっているのかと思ったが、火元になるような箇所は見られなかった。
「お兄ちゃん、こっちも手伝って!」
住宅街に到着するとあの助けた女の子エイミーに話しかけられた。
来ていたのか!
「分かった直ぐ行く」
一体何が起きているのか分からなかった。分からないけど今は考えている暇などない。とにかく火に巻かれ逃げ遅れている人を一人でも多く救い出さなくてはならない。
俺は走った。
声のする方に走って人を助け上げてはまた助けを求めている人の元へ走っては助け上げる。
もうその作業を何時間繰り返しただろうか。
終わりが全く見えてこない。
火の手は不特定多数の場所から上ってくる。全く火の気がないところから急に火の手が上がる。
手が回らない。
だが、自分の体力が続く限りやろうと思った。無我夢中で動き回った。自分の体がどうなっているのかも知ることなく無我夢中で動き回った。
くそっ、何か火元になるような原因があるはずだ。それを特定せねばこの作業は一生終わらない。
しかし、俺たちの現場には消防士は一人も駆けつけて来なかった。
街中の至る所から火の手は上がっている。
こっちに人員を割く余裕はないのだろう。
「お兄ちゃーん、こっち手伝ってー」
「おー」
ご老人を助け起こそうとしているエイミーの方へ走り寄ろうとした時、いまにも壁が崩れ落ちそうになっているのが見えた。
危ない!エイミーはご老人を助け起こすことに必死で、壁のことには気が付いていないようだった。
いや、例え気付いたとしてもエイミーのことだ。ご老人だけを置いて逃げるなんてことはしないだろう。
俺は走った。必死で走った。
が、急いで駆け寄ろうとしたが足がもつれ地面に倒れ込んでしまった。
立ち上がろうとするが足が思うように動かない。脚に視線を向けると小刻みに痙攣をしていた。
「ちくしょーなんなんだよ!なんなんだよ!」
肝心な時に何やってんだ俺は!
その子だけは助けてくれ!その子だけは死なせたくないんだー!
お兄ちゃんに助けられたこの命、「私も消化活動に協力したい、私も消防士になって人を助けるような仕事をしたい」と力強く言ったエイミーの姿が脳裏に浮かび上がる。
自分の足を拳で叩く。動け!動け!
「!!」
その時、俺の目に信じられないようなものが映り込んだ!
「何だこれっ!化け物か!?」
全身に火を纏っているような人間だった。
いや、人の形に燃え上がっている炎と言ったらいいのだろうか?
人型の炎のような物体が俺の足を掴んで動かないようにしているようだった。
「うおぉーーっ!」
俺は体をバタつかせ必死でそいつを払い除けると消えてなくなった。
何だったんだ?今のは?
「お兄ちゃん!お兄ちゃん!」
その声が聞こえたので振り向くとエイミーの方へ壁が傾いているところだった。
そして壁の反対側にはまたあの人型の炎が見える。壁を押してエイミー側へ押し倒そうとしているようだった。
「テメー、何してんだ!コラーっ!」
俺は無我無心で走り、エイミーと壁の間に自分の体を滑り込ませた。
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