第2話「雫ちゃん」

ある日の昼休み、丈太郎は職員室へと向かっていた。

すると向かう道中で

すれ違う同級生達から

ヒソヒソと言われた。


「おい見ろよ…ミノタウロだぜ…」


「相変わらずでっけぇ…」


「怖い」


「ミルコと戦ってくれないかな」


丈太郎は同級生達から

密かに"ミノタウロ"と呼ばれていた。

"ミノタウロ"とは'2000年代に活躍した

ブラジル人総合格闘家の

アントニオ・ホドリゴ・ノゲイラの

リングネームである。


しかしなぜ、そう呼ばれているのか。

それは丈太郎が、母がブラジル人、父が日本人の

日伯ハーフであり、それに加えて

身長と体重が全盛期のノゲイラと

ほとんど同じだからなのである。


丈太郎は正直そう呼ばれている事を

快く思ってはいなかった。

しかし去年のあだ名である

"長老"よりはマシなので

まぁいっかと思っていた。

本人としては中学時代のあだ名である

"ジョー"と呼んで欲しいのだが

叶うことは当分なさそうだ。


教室から2分程歩いた所で

職員室に到着するノゲイラ……じゃなく丈太郎。


コンコン


「失礼しまーす、1年A組の天竺です

雫先生はいらっしゃいますか?」


丈太郎がそう言うと

奥の方から黒髪ショートヘアの

若くて綺麗な女性教師が出てきた。


「アララァ~!待ってたわよ~!

ノゲ…天竺君!」


(絶対ノゲイラって言おうとしたろ……)


丈太郎は心の中でそう思った。


「あの~…俺に話って言うのは?」


「うん、ここじゃなんだから

場所変えましょうか」


そう言って

二人は家庭科室へと移動する。

中に入って席に着くなり

雫は丈太郎に話を切り出す。


「天竺君…1学期が始まって

1ヶ月以上経つけど……

クラスはどう?慣れた?」


「いえ、全く……

友達とかも一人も出来てませんし…」


「そっか……」


「……」


二人の間に

やや沈黙が続く。

すると丈太郎が雫に話しかける。


「……先生…俺、学校辞め…」


「ダメです」


丈太郎が言い切る前に

雫は返答した。


「あ…あの~…まだ最後まで言ってないんですが…」


「続きは「辞めたい」でしょ?

残念だけどそれは許しません」


「Why!?」


「ご両親に頼まれているのよ

息子を何がなんでも卒業させてくれって」


「~~~ッッッ!!!」


雫がそう言うと、丈太郎は

勢いよく席から立ち上がり

床に寝そべって暴れた。


「嫌だー!!もうつらたん!!3留つらたん!!

同年代達はもう大学行ってるっつの!!

俺も行きたいよー!!中退して高認取って

大学行きたいよー!!そしてテニサーに入って

不純な事したいよー!!」


すると雫は叫び出す。


「天竺君!!」


雫は叫ぶと瞬時に

床に寝そべる丈太郎の上に覆い被さる。


「え!?ちょ!?先生!?

こんな所でマズイですよ!!」


マシュマロの様に柔らかい胸が

自身の体に当たりまくる。

それによって気が高ぶり

自慢のマグナムがフィーバーしそうになるが

瞬時に母親の裸を想像する事によって防いだ。


「天竺君!!イクわよ!!」


「え!?イクって!?」


グワーッ!

ガッ!ガッ!


「がっ……!!こ、これは……!!」


雫は丈太郎に

腕ひしぎ十字固めを仕掛けた。


「いでででで!!ギブギブギブ!!」


丈太郎は必死にタップする。

すると雫は即解除する。


「ハァッ……ハァッ……

先生…一体何のマネですか…?」


丈太郎の問いに雫は答える。


「天竺君…実は私ね…

新しい部活を作ろうと思っているの」


「ぶ、部活…!?」


「ええ…その名も……"柔術部(助)"」


「な、何ですかソレ…?」


「柔術を使ってこの学園にいる困っている人達を

助けるという部活よ」


「じゅ、柔術で助けるって…どういう意味ですか!?」


「まぁとにかく!君はそんな素敵な部活の

メンバーとして選ばれました!」


「え!?い、いやいや!!入らないですよ俺!!」


「あ、ちなみにね、もう1人メンバーは決まってるの」


(聞いちゃいねぇ!!ていうか…もう1人?)


「入ってきて~」


雫がそう言うと

1人の女子生徒がガラガラと扉を開け

中へと入ってくる。


その女子の外見は

金髪のショートヘアに両耳にはピアス。

黒のブレザーの下にグレーのパーカーを着用し

スカートはパンツが見えそうなくらい短い。


「紹介するわ

彼女は夢咲咲空(ゆめさき さら)さん

天竺君と同じA組の子よ」


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る