ばあちゃん
ピーコ
ばあちゃん
今日は、9月4日、日曜日。私の結婚式だ。
私の名前は、平田あゆみ。28歳。
私には、両親がいない。私が5歳の時、交通事故で亡くなった。酒気帯び運転のトラックが、父親の運転する車に、ぶつかってきた。私も車に乗っていたが、奇跡的に助かった。
私を育ててくれたのは母方の祖母。うちの両親は、結婚を反対されて駆け落ちしたので、父親は、両親に勘当されていて、全く付き合いがなくなっていた。祖母は、基本、優しい人だけど、しつけが厳しかった。
両親が亡くなったあの日。私は、火がついたように泣きまくった。「ばあちゃん、どうして、パパとママは、死んじゃったの?ねー、なんで、なんで?」「パパー、ママー、帰ってきて。あゆみを1人にしないでー!」私は、錯乱状態だった。
私は、一人っ子で、両親の愛を充分に受けていた。優しくて、わがままを聞いてくれた父。私が、悪いことをしても、怒らないので、よく、母に「ちょっと、パパ。あゆみに甘すぎるよ。」って怒られてたっけ。
母は、パンやケーキを手作りで作ってくれた。
幼稚園のお友達が来ると、手作りのケーキを出してくれた。よく友達に、「あゆみちゃんの
ママのケーキ、ケーキ屋さんのケーキみたい。いいなー。」って、よく羨ましがられてたっけ。
自慢の母だった。
そんな大好きな両親が、急にいなくなった。
泣きじゃくる私を祖母が励ましてくれた。
「あゆみ、これからは、ばあちゃんが、あゆみのばあちゃんとお母さんをやるけん。もう、泣かんでよかよ。」
祖母との生活は、初めは、違和感だらけだった。聞きなれない九州弁。和食だらけの食事。しつけに厳しかったし、祖母との暮らしは、少し、しんどかった。
でも、小学生になり、私が、テストで、良い点を取ると、すごく褒めてくれた。「あゆみは、賢かねー。あゆみのお父さんは、頭のよかったけん。お父さんに似たんやろねー。」運動会で、かけっこで1位を取った時も、「あゆみは、足の早かねー。あゆみのお母さんも足の早かったとよ。お母さんに似たんやろねー。」
嘘をついたときは、めちゃくちゃ怒られた。
「ばあちゃんは、あんたを嘘付きに育てた覚えは、なか。嘘付きは、泥棒の始まりやけんね。
おまわりさんの捕まえに来るとよ。あゆみが
おまわりさんに連れて行かれても、ばあちゃん、知らんけんね。」私は、それを聞いて泣きながら謝った。「ばあちゃん、ごめんなさい。もう、嘘つかないから、おまわりさんに言わないでー。」
そういうと祖母は、「もう、わかったけん。二度と、嘘ば、ついたらいけんよ」と優しく頭をなでてくれた。
参観日の日は、嫌だった。皆、お母さんが来てるのに。うちだけ、祖母が来ている。たまに、からかう男子がいた。「あゆみの母ちゃん、ばあちゃんみたい。」そう言われると「だってばあちゃんしか、うち、いないし」って言い返した。
友達が遊びに来たときも嫌だった。祖母は、得意のおはぎをおやつとして出した。私は、そのおはぎが大好きだったけど。幼稚園からの付き合いの友達が悪気は、ないだろうけど、「ケーキとか、クッキーとかは、作れないの?」って言ってくる時もあった。そういう時、私は、母のことを思い出し、友達が帰ると泣いた。私が泣いていると、祖母が背中をさすってくれ、「ばあちゃん、洒落たもん作れんけん、恥ば、かかせてごめんね」って謝ってきた。
中学、高校は、反抗期。口うるさい祖母に、めちゃくちゃ反抗した。「あゆみ、なんね、その短いスカートは。パンツが見えるけん、もっと長くせんね。ばあちゃん、恥ずかしくて、外、歩けんばい。」「あゆみ、何時やと思っとると?ばあちゃん、あんたをそんな不良に育てた覚えなかけんね。ばあちゃんが、どんだけ心配しとるか。わからんとか。」あの当時は、めちゃくちゃしてたからなー。祖母に、だいぶ心配かけた。
高校を出て就職した。初任給で、祖母に、回らないお寿司をごちそうした。祖母は、めちゃくちゃ、うれしそうだった。「ばあちゃん、うれしかー。あゆみのおごりとか、夢のようたい。」
祖母は、遠慮して安いネタばかり頼んだ。
私が、「もっと、高いの頼んでいいよ」って言ったら、「ばあちゃんは、卵と、しめさばと、かっぱ巻きが好物やけん。これで、充分」と言った。
それから、年月が流れ、いよいよ明日は、結婚式。祖母と何十年かぶりに一緒の布団で寝ることにした。かしこまった挨拶すればよかったけど、照れくさいので、やめた。
布団に入って、祖母に言った。「ばあちゃん、手つないで寝てもいい?」私が言うと、祖母は「よかよ。最後やけんね。」と寂しそうに言った。「最後とか言わないで。すぐ近所だし、しょっちゅう会いに来るからね。」
私が、そう言うと、祖母は、「しょっちゅう来たら、けんじさんが寂しがるとやろ。もう、あゆみは、けんじさんの奥さんやけん。」と言った。
「けんじさんの奥さんだけど、あたしは、ばあちゃんの孫だし、娘だよ。ばあちゃん、あたし、結婚するのやめようかな。ばあちゃんとずっと一緒にいたい。」私は、祖母に抱きついて泣いた。
「泣いたらいけん。泣いたら、目の腫れるけん。
明日、お岩さんみたいな顔になったら、台無したい。」と言って笑ってきた。
私は、朝まで祖母に抱きついて寝た。いろいろあったけど、私は、ばあちゃんが大好きだ。
朝になって、花嫁は忙しい。ばあちゃんも気が焦っている。「あゆみ、忘れものなかねー?」
「うん、大丈夫。私のことは、いいから、ばあちゃんも早く、用意して。留め袖、着付けてもらうんでしょ。」2人で、バタバタバタバタ(笑)。
迎えの車が来て、結婚式場に向かった。
私は、ヘアメイクをしてもらって、ウエディングドレスに袖を通した。我ながら、キレイかも。
鏡を見ながら、ニヤニヤしていると、祖母が入ってきた。
「あゆみ、きれいかー。どこの国のお姫様かと思った。あゆみのお父さんとお母さんが生きてたら、どんなに喜んだやろね。」祖母は、涙をこぼして言った。「もう、ばあちゃん、今から泣いてどうするの?」あたしは、つられ泣きしそうだったけど、ぐっと耐えた。
結婚式が終わり披露宴の花嫁が感謝の手紙を読む時が、来た。私は、めちゃくちゃ緊張している。
手紙を持つ手が震える。
「私は5歳の時、最愛の両親を交通事故で亡くしました。私を今まで育ててくれたのは、祖母です。
祖母がいなかったら、今の私は、いません。子供の時、両親がいなかったことは、正直寂しかったです。他の友達が、羨ましかったです。でも、祖母がそばにいてくれたから、両親がいない悲しみを乗り越えることが出来ました。
中学、高校時代、反抗期が、ひどかったです。私は、イライラした気持ちを祖母にぶつけました。帰りが遅くなった日、一度、祖母に、頬をぶたれたことがありました。ぶった後、祖母は、泣きながら謝ってくれました。私が、悪いのに。祖母の涙を見た日、もう、祖母を泣かせたくないと思い、私は反省しました。
けんじさんが、家に結婚の挨拶をしに来てくれた日も祖母は大喜びしてくれました。
私、けんじさんと幸せになるからね。ばあちゃん、安心してね。
けんじさんに謝りたいことが、1つあります。
私には、けんじさんより好きな人がいます。
それは、ばあちゃんです。ばあちゃんが世界で
一番好きです。そこだけは、譲れません。
ばあちゃん、これからも、ずっと、私の味方でいてください。ばあちゃん長生きしないと怒るからね。」
会場に座っている祖母のほうを見ると、大号泣している。ばあちゃん、泣きすぎだよ(笑)。
私は、泣きながら、ばあちゃんを見て笑った。
結婚した後、土日になると、祖母に会いに実家に泊まりに行く。祖母は、「ばあちゃん、寂しくなかけん。しょっちゅう、帰ってこんで、よかよ。」って言う。でも、その顔は、とってもうれしそう。
ばあちゃん、これからも、よろしくね。
ばあちゃん、大好きだよ。
ばあちゃん ピーコ @maki0830
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