破天荒異世界ライフ!
キャラ&シイ
序章 意識しなてないのに逃避行。
(は~、またサービス残業かよ。本当に冗談じゃないよな~?)
望はタメ息をつきながら、心の中で毒づく。
この青年の名は如月望(きさらぎ・のぞむ)。
今年で42歳。
彼女いない歴=年齢。
友達いない歴=年齢。
だから当然、独身で童貞。
更には小学生時代に両親が事故で他界している為、両親と過ごした記憶もあまりなく、その後、施設で育った為、両親の記憶も曖昧だった。
また、施設で一緒だった他の仲間達も意外と早く里親が見つかったため、里親の見つからなかった望だけは最後まで施設暮らしだったのである。
そして、そんな最悪のスタートダッシュで社会に出た望が、まともな職につけるはずもなく‥‥建築年数の不明のボロアパートを借り、派遣社員として細々と暮らし始めることになった。
恵まれない幸無き人生‥‥。
だが、望は幸せになることを諦めていなかった。
努力すれば必ず報われると信じていたからである。
そして、派遣社員として色々な会社を渡り歩き、30歳になった時、漸く正社員になること前提の会社に辿り着いたのだった。
それから2年間、必死の思いで努力を重ねた結果、その努力が認められ、望は念願の社員と雇用されることに成功。
その後の5年、たゆまぬ努力で成果を出し、望は係長に昇進した。
望の中に満ちる幸せに近づく実感‥‥。
努力する者は必ず報われるという確信。
望の心の中に希望の光が差し込んだ瞬間だった。
だが、それから1年後、望は深い闇の底に叩き落とされるような出来事に遭遇する。
その切っ掛けとなったのは、一緒に会社に入社した仲の良い同僚に保証人を頼まれ、引き受けたことだった。
信じた理由は、その同僚とは仲の良い友人関係にあったからである。
だから同僚の絶対に迷惑をかけないという、言葉を信じた。
しかし‥‥。
そんな望の思いを裏切り、同僚は借金を踏み倒して、望の前から忽然と姿を消した。
そして、望はその後、知ることになる。
実はその同僚が1ヵ月前に辞表を出していたことを‥‥。
同僚は最初から借金を踏み倒すつもりだったのである。
つまり、計画的なものだったのだ。
(なんで俺は、アイツに裏切られたんだろう?)
だが、その理由が分からない。
そして、理由の分からぬまま望は、同僚の代わりに借金を支払い続けることなった。
借金の額は3000万円。
月々の支払い額は15万円以上。
明らかに簡単に、支払える額でなかった。
更に最悪なことに同僚が金を借りた先は悪名高い闇金であり、暴力団とも繋がっている。
それ故に交渉の余地など皆無。
そに先にあるのは、理不尽に続く理不尽だけだった。
支払いが滞った際、アパートにくるだけでなく、会社にも電話がくる。
だが、厄介事は、それのみに止まらなかった。
悪い事というのは続くもので一度、その切っ掛けが出来ると即座に次の厄介事が発生するものである。
望においても、その例に漏れず、続けざまに不幸事に見舞われる事となった。
その不幸事というのは会社の業績悪化に伴う他大企業との吸収合併である。
その結果、代表取締役が交代し、会社環境が一変することとなった。
一言でいうなら会社環境の悪化である。
そして、望の勤務する会社は超ブラック企業と化し、望を含む、社員たちのモチベーションは地に落ちた。
残業代はサービス残業という扱いになり、給料も上がるどこか下がる一方。
更に新しい代表取締役から人件費削減のため、ボーナスのカットまで告げられる。
もはや長年、勤務してきたコールセンターには苦痛の要素しか残っていなかった。
当然、そんな場所に残ろうと考える者は少なく、会社を辞める者が続出。
人材不足を補う為に、休日出勤が当たり前になった。
また、会社が超ブラック企業と化したことの影響は会社に残っていた上司たちにも悪影響を与える始める。
劣悪な環境によるストレスが、穏和だった上司たちを豹変させたのだ。
そして、新体制になってから約半年後‥‥。
望は上司に八つ当たりや責任転換をされることが当たり前になっていた。
超ブラック企業で過ごす日々は、もはや地獄。
まともに休みなど無いに等しく、毎日が残業三昧だった。
また、アパートに戻っても闇金からの督促状やら電話やらで気の休まる暇もない。
何処に行けば安住の地はあるんだろう?
そんな疑問だけが脳裏を過る。
(やっと終わったな。
帰るとするか‥‥。)
漸く残業を終えた望は会社を出て足早に、営業終了間際のスーパーへと急ぐ。
望のお目当ては、半額になった弁当である。
毎日、残業のため、とても自炊をしている余裕はなく、かといってを毎日、外食を続ける経済的余裕もない。
その結果、辿り着いたのが低コスト商品を取り扱うスーパーの半額弁当だったのである。
しかし、格安弁当故に味の方は決して褒められたものではなく、弁当内のおかずもかなり質素。
だが、それでも食べられるだけマシだった。
望は半額弁当が残っていた半額弁当を手に取り、それを購入すると、足早にスーパーを後にする。
明日も仕事で朝が早いので、急いで食事を済ませ、寝ないといけない。
(それにしても、なんで俺は、ここまで頑張らなきゃ行けないんだろうな?)
そんな時だった。
望の脳裏、ふと、そんな疑問が過る。
それは人生に対する素朴な疑問だった。
(そもそも俺は、何の為に生きているんだろう?)
誰かの為ーー?
(大切な者など何処にいるというんだ?)
望は、その答えを即座に否定した。
天涯孤独の望には、大切に思える者がいなかったからである。
そして、そうなった最大の理由は大切な人が出来た時に、失うことが怖かったからだ。
それは幼き頃に両親を失った経験。
そこから生じたトラウマであった。
つまり、大切な人を作り、もし失うようなことがあったら、その悲しみを耐える自信がなかったのである。
だから望は誰かと深く関わることを避けた。
そしてギャンブルなどもせず、趣味も持たず、地道に生きていたのである。
だが、そんな生き方を心掛けてきたものの、多くの苦労や悲しみを体験してきた望には、どうしても見過ごせないものがあった。
それは望は同じような苦に至る者である。
だから、見過ごせず、思わず手を差し伸べた。
そこにいるのは、かつての自分と同じ者だから。
助けてほしい時に助けてもらえなかった自分自身だからこそ、助けねばならない。
そんな過去に生じた深い心の傷が痛むが故に望は、自分自身の手で自分自身を救わねばならないのだと行動してきた。
しかし‥‥。
(その結果がこの有り様か‥‥。)
正直、今となっては何が正しかったのか、今の望には、もう分からなくなっていた。
大切な人もないないから、大切な人と支え合い生きるという選択肢もない。
真面目に生きたが、その結果、最悪の環境で過ごすことなり、また善人だったが故に借金まみれで苦しむ今がある。
昔も貧しく、借金することもあったがそれでも今よりはマシだろう。
頑張れば絶対に幸せになれる‥‥。
(それは幻想だったのかな?)
微塵の幸せも感じない人生。
諦める理由を考えたらキリがない。
(つまり、善人やお人好しが馬鹿を見る世界だったということか。)
大きな不幸を背負う者は、それに匹敵する幸福を手にすることができるに違いない。
そう信じてきたのに‥‥。
(なんだか、疲れてきたな‥‥。)
何時ものことだが、今日は特に酷かった。
そして、望は足を止め、自らの思考に入り浸る。
だが、そんな負に満ちた思考を何とか切り離し、何とか途中で考えることを止めた。
考えれば考えるほど、生きることに嫌気がさしてしまう。
だから、自身に残された選択肢は一つしかなかった。
その選択肢とは‥‥。
(帰って早く寝よう。明日も仕事だしな。)
何も考えずに寝ることである。
そうすれば、悩むこともない‥‥。
それ故に望は、アパートに帰えるべく、再び歩みを開始する。
しかし、その直後、望は奇妙な何かを感じ、足を止めた。
「ん‥‥今、何か光らなかったか?」
通りかかった路地の奥で光る何か。
(なんだ?)
普通なら絶対に気にしないであろう事柄。
だが、その光源の正体に妙に心を惹き付けられた望は、考えるより先に動いていた。
まるで夢遊病者のように、狭い路地の奥地へと歩き出す望。
そして、光源を目にした闇の中に、自ら足を踏み入れる。
だが、その直後だった。
目映い光が全身を包み込み、望は思わず目を閉じる。
そして、再び目を開けると、そこは‥‥。
(えっ!? 何処だよ、ここ!?)
見覚えのない‥‥光に満ちた広大なる森の中だった。
(俺は夢でも見ているのか?)
望は説明のできない非現実的な状況を受け入れられず、呆然と立ち尽くす。
そして、取り敢えず、落ち着いて考えるべく、悩んだ結果、ある結論に辿りいた。
その結論とは‥‥。
(腹が減っては、戦はできぬというし、取り敢えず飯でも食いながら考えようか。)
スーパーで購入した半額弁当を食べるというもの。
そんな投げ遣り感満載の決断に疑問すら持たぬまま望は、幸せそうな笑顔で、半額弁当の蓋を開けるのだった‥‥。
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