Episode07.デートいたしましょう①
噴水の前で、ロサミリスはそわそわしていた。
サヌーンに言われて今日はお出かけ。
そうは言われても、前世の記憶を思い出してから外へ遊びに出かけた試しが無かった。何をすれば、どこに行けばいいのか分からない。せめてニーナが一緒に来てくれれば良かったのだけれど、ニーナは「楽しんできてください!」と笑顔で見送られてしまうし。
(ジーク様も断れば良かったのに……)
そう、ロサミリスがそわそわしているのは、
「遅くなった。待ったか?」
「いえ。現地集合にしたのはわたくしの都合ですから」
「そうか。時間さえあれば、屋敷まで直接迎えに行ったが……」
「現地集合の方が早いに決まっておりますわ」
護衛の者を下がらせ、ロサミリスは婚約者殿を見上げる。
公の場やお茶会で一緒に見る時とは違い、いつもより
「…………可愛い、な。いや、いつも可愛いのだが、今日のロサは特別に可愛い。服はやっぱり、ニーナのチョイスか?」
ジークとのデートに最も気合を入れていたのはニーナだ。
「鼻血を出させます!」なんて当人に言ったら不敬罪に問われそうな事を言いながら、ロサミリスの服を選んでくれたのだ。今日のテーマは「夏の初デート」らしい。
お出かけ用のドレスの色は白。
二の腕をあえて見せるのがモード感らしい。
肌を露出し過ぎず、でも殿方の視線を釘付けにする戦法だとニーナから説明を受けたが、いつもと違う装いなので戸惑う。髪を短くしてから髪型の
「凝視しないでくださいまし。……照れます」
「いや、本当にそう思う。神秘的な黒髪が月夜のように輝いて、よく栄えている…………綺麗だ」
「そ、そうですか?」
「ああ」
(………………良かった)
口下手とまでは言わないが、ジークが流暢に他人を褒めるのは珍しい。今まで公事私事問わず近くて見て来たけれど、褒めるところは見かけない。
ジークの心が自分の方に動いた。
それだけで、とても幸せな気持ちになる。
「では参りましょう」
「ああ。行きたい場所はあるか?」
「まだ決めておりません。ジーク様は?」
「ある。ぜひ送りたいプレゼントがあるんだ」
「プレゼント、ですか? ジーク様にはいつも、たくさんの贈り物をいただいておりますが」
「ささやかな気持ちだ。いつもロサには感謝している」
普段口角をあげて笑うことの少ない彼が、小さく微笑む姿を見て。
本当に心の底から、自分はこの人のことが好きなんだと思った。
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