今田神父
わたしは、ヨハネ今田敏夫、今は神父をしているが、かつては刑務官として拘置所に勤めていた。
ここに来るのは、何年ぶりだろうか? 刑務官の制服でなく司祭平服(カソック)を着て拘置所の重厚な門をくぐるのは初めてだ。
「おや、今田くんじゃないか? すっかり立派になって」
かつての上司で先輩である佐藤看守部長が話しかけてきた。
「いえ、まだまだです」
そう返すと佐藤先輩は、少しあっけにとられたようだった。
「君がいなくなってから大変だったんだよ! 急に辞めてしまうんだから、しかし、まさか神父さまになるとは思わなかったよ」
佐藤先輩は嬉しそうに言う。
「先輩もお元気そうで何よりです」
そう返すと「元気だけが取り柄だからな」と言いながら肩を叩いてきた。
そうこう言いながら廊下を歩いているうちに死刑囚舎房の入り口近くに来た。
死刑囚が映画を見たりするときに使用する部屋で教誨は行われる。
死刑囚の部屋で教誨を行っていた時期もあるようだが、他の死刑囚を刺激しないために別室で行われている。
「今田くん・・・・・・いや今田神父さま、お願いしたい囚人なんですが、ちょっと問題がありまして」
佐藤先輩は渋い顔をした。
佐藤先輩が困っている? いったいどんな人物なのだろうか?
「どんな人でも神の前では平等ですよ、いったい何をした人なんですか?」
我ながらクサい台詞だと思うがこれが本心なのだから仕方が無い、それに、元刑務官のわたしにしてみれば、どんな凶悪犯相手にも恐れずに教誨が出来る自信があった。
そう、この時は、教誨師として初めて導かなければならない相手がとてつもない悪魔だとは考えもしなかった。
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