第37話 王浚
「この
痩せこけた農民が兵士に追いすがるが、兵士は乱暴に蹴倒した。
「
「うう……あんまりだ……武帝様の御世にはこんなことはなかったのに」
「晋はもう終わったんだ。これからは
別の家からも悲鳴が聞こえる。
「後生です!娘には許嫁が」
「やかましい!貧乏人の
兵士は娘の父親を剣の柄で殴りつけると、泣き叫ぶ娘を馬車に押し込んで走り出した。
「幽州は地獄じゃ……誰でもええ、王浚をこらしめてくれるやつはおらんのか」
◇
「王浚様、ご堪忍を……わたしには夫婦となる約束を交わした人が」
奥から聞こえる痴態は日常茶飯事であるので、誰も気にも止めない。
しばらくすると静かになって、着衣の乱れを直しながら、幽州の支配者である王浚が家臣の前に姿を現した。
「あの小娘、舌を噛み切って死ぬとは無礼な。わしの女になるのは名誉なことだとわからんのか。まったく、
配下の
「ははは、また新しい処女を仕入れますので、ご機嫌をお直しください。それよりも、良い知らせと悪い知らせがございまして、どちらから聴きとうございますか」
「良い知らせから聞こうか」
「帝が、
「ぶひひひ、司馬熾め、遂に死んだか。劉聡も何をぐずぐずしておるものかと思っていたが。いずれは過去の肩書きとなるとはいえ、大司馬というのも悪くはないぞ。して、悪い知らせとは」
「
王浚は跳ねるように立ち上がる。
「なんと?石勒は建業を攻めに南下していったのではなかったか」
「それが心変わりしたのか、急に北上し、あっという間に邯鄲と襄国を占領し、今度は
王浚は口をぱくぱくさせて狼狽する。
鄴は二度に渡って漢の手に落ちたが、今は晋将の劉演が奪い返して駐屯していた。
「よし……いや、うーん。劉演は、あの
「鄴はかの
王浚の顔に喜色が戻った。
「そして、晋はいずれはわしの国になる。ううむ、やはり今のうちに叩いておくべきか。よし、
「ご安心ください。息子の
割拠の意思を露わにした石勒は、遂に幽州の雄、王浚と再び衝突することになるのであった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます