第19話「ヨミ・アーカイブ、配信ペースを落とす」
今日はエンディング後の番外編を一話アップロードしてエゴサをしてみた。つぶやいたーにはこれといって反応してくれている人はいなかった。いつものことではあるが、なかなか承認欲求を満たすというのは難しいことだ。
自分の名前が話題になっていないことを不満に思いながら、つぶやいたーからググるに移す。エゴサの先が変わるだけで自分のアカウントへの話題がヒットする。好意的なものから攻撃的なものまで様々だ。もちろん攻撃的なものを見れば心が傷つくし、肯定的なものを見れば癒やされる。
そこそこ好意的な感想を見て満足したので本丸に乗り込もうと思う。そう、MeTubeだ。もちろんチェックするのはヨミ・アーカイブのチャンネルになる。めざとく見つけてまだ数千字しか書いていないというのにレビューをされているかもしれない。自意識過剰なのかもしれないがヨミはなんだか俺の作品をフリー素材と思っているような気がする。残念ながらと言うべきだろうか、今夜はさすがに俺のネタで更新はしていなかった。というかそもそも今日は更新自体がなかった。
さすがのヨミ・アーカイブも毎日とはいかないのかね……そんなことを思いながらブラウザを閉じた。あるいはネタがなかっただけなのかもしれないな、強権のように上位ランカーに噛みついているヨミがネタ切れを起こすことなどそうそうないと思うのだが確実にそうなるということではないので今日は上位にネタになりそうなものが無かったのだろう。
ヨミのチャンネルを観察する必要が無くなったので、明日のために今日は早めに寝ようとしたところでロインが入った。津辺からのものだった。
『ヨミちゃんが更新してない! 何かあったんだろうか?』
そんなことを聞かれたので『知らんよ』とだけ返しておいた。そしてスマホを就寝モードに設定してケーブルに繋ぎ、今度こそ安眠を得たのだった。
さて、翌日になって俺はパーキンソンの法則と言うものをよく思い知っていた。様々な役や解釈があるが、コンピュータ業界では処理能力が増えるにしたがってリソースを消費しきるように処理量が増大していくことをいう。つまりは早く寝ることが出来たというのに起きたのは登校十五分前と、ほんの少しだけマシになっただけだという事実だ。
どうやらいくら睡眠を取ろうと満足のいかない身体になったらしい。眠気を覚ますために食パンを焼くこともせずエナドリで飲み込んだ。糖分とカフェインとアルギニンで目が覚めたので素早く着替えて鞄をひっつかみ登校することになった。
確かに時間ギリギリだったが、必要な時間は確保出来たので急ぐ必要は無かった。のんびり歩いているとあくびの一つも出てきたが、それをかみ殺して通学路を歩いていると津辺に声をかけられた。
「よう並……眠そうだな」
「津辺の方がよほど眠そうじゃないか」
「いや、昨日日が変わるまでヨミちゃんのチャンネルページをリロードし続けてたからな」
もう少し有意義な時間の使い方は出来なかったのだろうか? 日が変わるまでって向こうが寝ているかもしれない時間までご苦労なことだ。物好きだとは思うが蓼食う虫も好き好きという言葉もあるし、それなりにヨミの配信にも需要があるのだろう。
「惜しかったなあ……三時までヨミちゃんの過去配信を見続けてたのに寝落ちしたよ」
「そんなに情熱を持ったファンがいてヨミもさぞ喜んでるだろうな」
あきれる情熱だが、健全な高校生の生活ではないような気がする。お前本当にそれでいいのか?
「まあさっさと登校しようか。たまには諦めが肝心だぞ」
三時まで配信待ちをされてもヨミ・アーカイブだって困るだろう。というかヨミが人間だということを理解していないのだろうか? 普通の人は大半のリスナーが寝ている深夜に生配信などわざわざしないと思うぞ。
そうして二人で学校に着くと教室で夜見子がクラスメイトたちとキャッキャしていたので悩みは解決したのだろう。そう思いながらぼんやりした頭でチャイムを聞いた。
あっという間に昼休みになり、隣で夜見子がスマホをチラチラ見ていた。何か通知を待っているのか机の上に置いてじっとそれを見つめているのは不気味だった。
「何か面白いことでもあったか?」
気まぐれに夜見子にそう訊いてみた。たいした事情ではないと思っていたので特段気になっていたわけではない。ただなんとなくスマホを観察しているので何かを待っているのかと思っただけだ。
「無いわよ、むしろ凶報ね」
「そうか」
何か悪い知らせでもあったのだろう。人の考えていることなど理解出来ないものだ、自分のことさえよく分かっていないのに一々人のことを心配などする気は無い。
そうして昼休みもつつがなく終わり、下校をした。相変わらずの通学路を歩きながらスマホを見た。信号待ちで一通り巡回を終えて帰宅したのだが……家に入るなり良子が抱きついてきた。
「わ!? どうしたんだよ? 何か良いことでもあったか?」
「レスバで勝ったの!」
ものすごくしょうもない理由だった。誰が相手かは知らないがご愁傷様の一言しか思い浮かばない。俺はスマホのフィルタリング否定派だが、こういうことがあるとフィルタリングにも意味はちゃんとあるのだなと思ってしまう。妹よ、レスバで勝ったことは誇れることではないんだぞ。
「よかったな」
それだけ伝えて部屋に帰った。
ピコンと電子音がしてロインの通知が届いた。そこには津辺からのメッセージで『今すぐヨミちゃんのチャンネルを見てくれ!』と書かれていた。
PCを起動していつも見るチャンネルを開くと『重要なお知らせ』という動画がアップロードされていた。
「これを見ろって事か」
そうして動画の視聴を始めた。
『司書くんたちに重要なお知らせです。諸事情により動画と生配信の頻度を下げることにしました、心配をかけることになってゴメンね、動画投稿はやめないから待っててね!』
ただそれだけの動画だった。だが連続で悲痛なメッセージがスマホに津辺から届いた。どうやらあのヨミ・アーカイブリスナーにとっては一大事らしい。俺の知ったことではないので既読をつけるかも迷ったが、いちおう『大変だな』とだけ送っておいた。
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