第4話「ニアミスでヒヤヒヤ」

「なあ並、ヨミ・アーカイブの配信ログを一緒に見ないか?」


 俺に津辺が話しかけてきた。正直そのログは見たくもないものだった。


 ガタッ


 隣の席の夜見子がぐったり寝ていたのだが津辺が話しかけてきた時に足を机にぶつけていた。寝ている時に来るアレだろうか? 突然来るので学校で授業中にやると大恥をかくんだよな。


「俺、あのVTuber苦手なんだよ。しょっちゅう炎上させてるじゃん」


「失敬な! 沸点の低い作者がちょっと擦られて切れているだけだろ!」


「それがいやだって言ってるんだよ。関わり合うと俺まで炎上しそうじゃん?」


 と言うかもう既に炎上しているんですがね。関わり合いたくない相手トップだ。コメントを残せなどと言われたら絶対にお断りするね。


 しかし津辺のやつも面倒な配信者を推しているものだな。しょっちゅう炎上しているやつなんて俺ならあまり関わり合いたいとは思わないのだがなあ……


「大丈夫だって、ヨミちゃんはアンチコメでも粛々と対処するんだぜ? そんな配信ログを見ただけでキレたりするような娘じゃないよ」


 そもそもヨミ・アーカイブの年齢が何歳なのかも分からないのに平然とそう言ってのける姿勢は見習いたいものだな。あーアイツの顔がふとした拍子にOBSの設定間違えて公開されねーかな……


「な、大丈夫だから見ようぜ」


「はいはい、分かったよ」


 ぼっち特有の他に選択肢がないという理由から津辺と配信ログを見るハメになった。


『みんなー! 待っててくれたかな?』


「可愛いよな!」


「ああ、そうだな」


 VRモデルでわざわざブサイクに作るようなやつは少数派だろうと思ったがそれはぐっと黙っておいた。そこから悪夢のようなチャットログが流れていく。


『今日は何を紹介するんだろ?』


『どうせまたクソ小説だろ』


『ヨミちゃんが名作を紹介した事ってあったっけ?』


 リスナーの方も民度が低いのだろうか、言いたい方大好きなように書いている。コイツが紹介する作品に作者がいることなどまるで知らないように好きなことを書いて満足している。


「可愛いよな! メンバーシップに入ろうかと思っているんだがどう思う?」


「好きにすればいいんちゃう? 知らんけど」


 どうでもいい話ではあった。コイツが信者から儲けた金で何をしようが自由だが好き放題言うだけのやつのメンバーシップに入りたいとは俺はまったく思わない。


 焼きそばパンを食べながら津辺はスマホに見入っている。俺はスマホの通信量が減らないように表で動画を見ることは少ないので、自分のスマホは使っていない。無制限プランに入っていたとしても、ヨミ・アーカイブの配信を見るためにWi-Fiの無い環境でMeTubeを開くかと言ったら答えはノーだろう。


「雑な答えはやめろよ……俺は真面目に悩んでるんだぞ?」


「いうてメンバーシップって月五百円だろ? 入りたいならケチるような金額じゃないだろ」


 ヨミ・アーカイブのメンバーシップは安い。間違えてクリックした時に値段が出たが五百円と表示されていた月五百円なら小学生だって支払えるだろう。俺はそれを見た時『なに人の文で収益化しておいて金までせびってるんだ』と思って即座にキャンセルしたのだがな。


「でも月五百円だぜ? その分毎月スパチャをしたら認知して貰えるかもしれないじゃん? どっちにしようか迷ってるんだよなあ」


 どちらでもいいじゃねえかと思った。知らんがな、それにヨミ・アーカイブは結構スパチャをもらっているので月五百円スパチャをしたくらいじゃ認知はしてもらえないと思うぞ。


「入りたいならはいればいいじゃん、そのくらいの金はあるだろ?」


「漫画を買う金が無くなるじゃないか。五百円あれば漫画が一冊買えるんだぜ?」


 ガタタッ


 夜見子の足が机に当たっている。痛そうにしているのだが大丈夫だろうか?


「並、聞いてるか?」


「ああ、聞いてるよ。津辺に金が無いって話だろ?」


「そんな悩みじゃねえよ!」


 そうは言っても結局のところそういう問題になってしまうだろう。スパチャをしてメンバーシップに入って、漫画を買うかねだってあれば困らないだろう。結局は金の問題なのだよ、親に金をせびればいいんじゃ無いかなと思ってしまう。


「ああ……ヨミちゃんに認知されてえなあ……」


「アイツ、かなりスパチャもらってるし、かなりキツい道だと思うが頑張れよ」


 VTuberの認知なんてもらうのは非常に難しい。配信ごとに万単位のスパチャを投げる財力があれば別だろうがな。そんな金が高校生にあるはずもない、日本に石油王はいないのだ。


 まあ零細Vで収益化もしていないやつなら配信に来るのが一桁とかあるのでコメントを書き込むだけで結構認知のチャンスはあるんだがな、ヨミ・アーカイブはそうするにはもう手遅れで、ファン数が悔しいことに多すぎるんだ。


 と言うかアイツが腐した俺の『蒼天の鳥』についたブクマよりアイツの配信についた同接の方が多いというのはどうしても納得いかない。ヨミもせずに低評価入れたやつ絶対いるだろ!


 そんな愚痴を言っても聞かせる相手もいないし、全てはしょうがないことである。


「そうなんだよなあ……認知もらってるやつも数人いるけど毎回万単位で投げてるもんなあ……」


「伸びてない個人Vでも探してコメントし続けたらどうだ。大手に認知もらうよりずっと楽だぞ?」


「俺はヨミちゃんがいいんだよ!」


「そうか、頑張れよ」


 クッソどうでもよかった。アイツに認知なんてされたいとは思わないんだよな、津辺の心というのは理解に苦しむな……


「並、俺にまで塩対応をするのはやめろよ……ぼっち仲間だろう?」


「そうだな、しかしぼっちであることとVに認知されることの何の関係があるんだ?」


「それは……その……スパチャを投げたいから少し融通してくれるとかさ」


「金で友情って壊れるんだぜ? ぼっち仲間に金の無心をするもんじゃないぞ」


 金の力は容易に人間関係を破綻させる。その様子は悲惨なものだ。カツアゲのような実力行使に出ず交渉から始めたのは少しだけ立派と言える。オタク界隈だとカツアゲも多いしな。なおカツアゲには公式が期間限定販売するグッズなども含めてのことだ、今買わないとという精神を巧みに利用したえげつない売り方である。


「あーあ……やっぱ認知は無理かあ……」


「V相手にガチ恋するのは修羅道だからやめておいた方が良いぞ」


 そして午後の授業を受けて帰宅時間になった。残念だが津辺がヨミ・アーカイブから認知を得られる可能性は低いだろうな。


 そして帰宅後、配信を見ようと思ってからやめておくことにした。関わらない方が精神衛生上良いというのが俺の結論だ。


 そして俺は更新を予約投稿して寝ることにした。

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