死神とブルーゴースト
べっしぶっつづけ
第1話
目を覚ますとそこは闇だった。光一つ見当たらず、周囲を帳で覆われている。起き上がると背中に変な感触を覚えた。ひんやりとしている。そういえば死神界にいた時、人間界には土があると先生に教わった。確かひんやりとしてどろっとしている。背中に覚えたこの感触はもしかして土なのだろうか。手で触ってみる。聞いていた通りだ。たしかにひんやりとして、そしてドロッとしていた。そこには形容しがたい幸福感を感じる。とにかく光は一旦地面から離れ、立ち上がった。といっても周囲は先程述べた通り、闇である。遠くどころか近くでさえ、確認することがままならない。一体、私はどこに派遣されたのだろう。皆目検討がつかない。ただ、わかっているのは日本という地域の何処かであるということだけだ。恐らく今は夜なのだろう。これも先生から教わったことだ。早く仕事をこなすため、光はどこともわからない道なき道を突き進む。
「あ痛っ」
何かに顔をぶつけてしまった。光はぶつかったものを確認する。それはよく目を凝らしてみれば木だった。木は先生に聞く前から知っている。死神界にいた時、能力が他の死神に劣っているという理由でいじめられていた。だから、光には友達がいない。そんな光は寂しさを紛らわせるためにいつも本を読んでいた。木はその本に載っていたのだ。だから知っている。ということはもしかしてここは森なのだろうか。地面には草が生い茂っている。木々が集合した場所。それが森で合ってるはず・・・。多少自信がなかった光だが、それは確信に変わる。歩いても歩いても木ばかりで家や建造物が見つからなかったのだ。森の中でも奥深くに光は転送してしまったのだろう。草木をかき分け、かすかな月明かりを頼りに光は突き進んだ。
あれから何時間経っただろう。体感時間でいえば2時間以上歩いている気がするが実際はどうなのだろうか。光の視線の先に光が見え始めたのである。ホタルなど自然的な光ではなく、黄色い人工的な光。それが見えると光は一目散にそれを追って走り出した。そこはそう遠くない。走って10分もすればその光に辿り着いた。光は家から漏れている。沢山の家が建ち並んでいた。なるほど。ここは住宅街という場所か。確か仕事はこの住宅街に現れる青い光がうんたらかんたらだった気がする。その時は人間界行きに選ばれたことの嬉しさのあまり、浮ついていたので光はあまりよく聞いていなかった。とにかく光は青い光を探す。それにしても住宅街は不思議だ。死神界にも家はあるのだが、どこが違う雰囲気を醸し出している。
「寒っ」
光は途端に身震いし始めた。死神といえど気温は感じ取ることができる。今、この住宅街には気温が6度しかなかった。森の中では家を探すのに必死だった光だが、今はそれが解決して忘れていた寒さが今更ながら襲いかかってきたのだった。どうしよう。一度立ち止まって考えてみるが寒さを凌ぐ方法がわからない。人間界に来て間もないので、当たり前といえば当たり前だった。
「あっ」
そうして考えていた光だがある先生の言葉にたどり着く。そういえば人間も死神と同じように気温を感じ取ることが出来るため、文明の利器を使って過ごしていると聞いたことがある。ということは民家に侵入して、それを借りればいいのではないだろうか。光は妙案とばかりに頷くと早速実行に移った。光が選んだのは民家の中でも一見ボロそうなアパートだった。光はアパートの中でも2階一番西側の家及び部屋を選んだ。早速部屋の中に入ってみる。
「お邪魔します」
光はそれだけ言うと部屋に侵入する。運よく鍵はかかっていなかった。部屋の中は外に比べ、幾らか薄明るい。美味しそうな匂いを放っていた。この匂いはカレーだろうか。光はカレーが大好物であった。目的を忘れ、匂いのするキッチンへと向かってしまう。この部屋はあまり広くないのだろう。玄関で靴を脱いで3歩ほど歩けば右手にキッチンがあった。キッチン台の上に光の大好物なカレーが置いてある。カレーは鍋に入っていた。味見ではなく、光は皿を探す。光はどうやらカレーを皿に盛って食べるようだ。皿はキッチン台の横。食器棚に3枚ほどあった。光は一枚だけ取り出してカレーを皿に取り寄せる。箸も食器棚に乱雑に並べられていた。箸も取り出す。そうして盛り付けたカレーをいざ食べようとした時、急に薄暗かった部屋に光が灯った。この部屋の主が起きてしまったのだ。やばい。光はなんとなく直感でそう思った。なんとなくこの状況は見られてはいけない気がする。死神界では部屋に無断で誰かが侵入してくることがあったが、果たしてそれが人間界に通用するのだろうか。結論からいえば通用した。部屋の主は何でもないかのように光を通り過ぎて、おもむろに冷蔵庫から何かを取り出したのである。
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