✪ ストーリーライン ✪
▪ チェコ、南モラヴィアの滞在型音楽スタジオ、イェリネク・ドヴールへ楽曲制作のためにやってきたジー・デヴィールの面々。
ロック界の伝説となっているスタジオ、ロックフィールドじゃないのかと文句を云っていたバンドメンバーたちだったが、来てみれば話に聞いていた以上の素晴らしい環境で、食事やワインも最高だった。
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▪ ある日ロニーが様子を見にやってきて、いま評判のフォトアーティスト、ゾルト・ギャスパーが撮影を引き受けてくれたと報告をする。売れっ子のギャスパーは来年までスケジュールが埋まっているにも拘わらず、ジー・デヴィールなら撮りたいとミラノから飛んできてくれるのだという。
しかし現れたその写真家の顔を見て、テディは驚き、信じられないという表情をした。いったいどうしたのかと思っていたルカは、その夜、
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▪ テディは不機嫌さも露わに、ゾルトに当たり散らしていた。曲作りや演奏も捗らず、ユーリがいったいテディはどうしたのかとルカに尋ねる。
ルカは自分の推測に過ぎないと断りを入れつつ、ゾルトがハンガリー人であること、自分とテディがブダペストで暮らしていた頃に会ったのではないかと話す。ユーリもそれだけで、ゲイバーで男娼まがいのことをしていたテディをゾルトが買ったのかもしれないとぴんとくる。
なるべくテディから離れないようにしろ、と心配そうなユーリ。しかしルカは、ゾルトがどういうつもりで来たのかというより、テディの彼に対する態度のほうが気になっているのであった。
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▪ 相変わらず不機嫌なテディ。ロニーがせっかく差し入れてくれたケーキにも目もくれず、荷物運びを手伝ったゾルトを見るなりそこから離れ、どこかへ行ってしまう。ゾルトはじっとルカの様子を見、ルカが動かないと知るとテディに続いて外へ出ていってしまった。
ユーリに、おまえが行かないなら俺が行くと云われ、ルカはしょうがないなとふたりの後を追う。
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▪ 裏手にある林の中でふたりを尾行するルカ。その会話から、ふたりがやはりブダペストのゲイバーで関係をもった間柄と知る。が、ゾルトは下心を持って会いにきたわけではなく、スキャンダルの原因となった写真について謝りたかったのだとテディに伝えていた。
そして、テディが彼に酷い態度をとっていたのは、自分のことをすっかり忘れていると思っていたからとルカは察し、まるで子供だと呆れる。
話をこっそりと聞き、変な心配をする必要はないなとルカは安心し、先に戻ろうとする。しかしそのとき突然、水音とともにゾルトが叫ぶのが聞こえた。なにを思ったのか、テディが水温の低い川に入っていったのだった。
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▪ ゾルトは、テディの態度に業を煮やし、一言云ってやろうと自分がしつこく追った所為でテディが川に落ちたのだと説明をした。暖炉の前でゾルトと肩を並べ躰を暖めていたテディは、拗ねた子供のような態度で謝罪の言葉を口にする。
そして翌日から、テディのゾルトに対する態度が一八〇度変わった。周りの皆はまるで狐につままれたよう。
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▪ 突っかからなくなっただけではなく、テディはとびきり上機嫌で、ほとんどゾルトにべったりといった様子であった。見かねてユーリが放っておいていいのかと注意を促すが、ルカは引き離そうとしても逆効果だろうと傍観し続ける。
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▪ 暫しの間、テディは上機嫌で楽曲制作も絶好調だった。が、ちょっとしたことで気分は上にも下にも変化するらしい。ゾルトがジェシと写真の話で盛りあがっているとき、テディは隣のテーブルの席にぽつんと坐り、つまらなそうにしていた。
やっとジェシが離れていくとテディはゾルトの傍へ行き、写真について質問をした。ルカは、写真に興味なんてあったっけ? と苦笑しながらその場を離れた。
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▪ 翌日。テディがゾルトの腕を引っ張って庭のほうへ向かっていた。ルカはそっとふたりの後を尾ける。
テディは開花しそうなクロッカスの花をみつけ、ゾルトに知らせたらしかった。だが少し話したあと、テディはなにが気に入らなかったのか膨らんだ蕾を蹴散らし、踏み躙ってしまった。
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▪ テディがこっちに向かってくるのを咄嗟にごまかし、ルカはゾルトとふたりで話す。ぜんぶ知ってるとルカが云うとゾルトは驚き、一発どうぞと頬を差しだすべきかなんてことを云った。しかしルカは殴ったりはせず、むしろ面倒をかけてすまないと云う。
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▪ 気が乗らないとスタジオに出てこないテディ。休憩に戻ったとき、ひとりラウンジにいたテディの態度にユーリがキレる。
そこへゾルトがやってきて、エミルに車を貸してほしいと頼む。買い物ついでにブルノで写真を撮ってくるというゾルトに、テディはひとりで行くの? と尋ねる。その様子を見てルカは一緒に行ってリフレッシュしてこい、と勧める。
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▪ 気分転換のおかげか、また上機嫌で調子を取り戻したテディが、曲のアレンジに素晴らしいセンスを発揮する。だがルカお得意の、しかしワンパターンでいまいちと棚上げされていたラヴバラッドは、テディのアイデアでやってはみたものの、まだ納得のいく出来にはならなかった。
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▪ 朝食の最中にエミルへの電話で、ロニーが運転する車で事故に遭ったことを知らされる。無事とは聞いたものの皆、曲作りどころではなく、ラウンジに集まってもほとんど会話もない状態だった。
そこへ当のロニーが現れ、皆はほっと息をつきつつ呆れる。他に予定もなかったからとステフと一緒にやってきたロニーに、車好きのメンバーたちは次に乗る車のことで一頻り盛りあがる。
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▪ 季節はすっかり春、周囲は緑一色に染まり、色とりどりの花々が咲く頃。
ロニーが乗ってきた新車を見て、皆はまさかこうくるかとがっかりした。ロニーが乗り替えたのは事故で廃車にしたのと同じフィアット500の新しいモデル。違うのは色だけだったのだ。
そして、一人ひとりのポートレイトの撮影のため、ドリューとジェシとゾルトを乗せ、ロニーとマレクの車がブルノに向かったあと。自分たちだけでやれることをやってしまおうとユーリがエミルにテディを呼んでくるように云う。だがエミルはひとりで戻り、テディが部屋から出てきませんと困り顔。
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▪ テディの部屋へ向かうユーリを放置しておけないとついてきたルカ。おまえいいかげんにしろとユーリはまたキレるが、テディはまるで動じない。そんな態度にさらに肚を立て、ユーリはテディとゾルトの関係についてずばりと云ってしまう。
「金と引き換えに寝た男がそんなに気になるのか!? よっぽど悦かったんだな!」と云われ、さすがのテディも顔色を変えた。テディが部屋を飛びだしていったあと、はぁ、と溜息をつき、ルカはユーリに思うところを語った。
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▪ テディは少年期に性的虐待を受けていた所為で、誰もが十代で経験するような恋をしたことがないのだと思う、とルカは話した。自分で自分の想いを持て余すような、どうにもできない衝動をテディはいま初めて経験しているのだと。
どうしてそんなふうに冷静に見守っていられるのかと、ユーリに尋ねられるルカ。
ルカは、なにがあっても離れないと十五年も前に決めたんだと、これまでにあったテディとのことに思いを馳せた。
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▪ ルカはポートレイトの撮影のため、久々にプラハへ戻った。マレクの車で直接撮影場所に向かうと、辿り着いたレトナー公園にはサーカスのテントがあった。
待っていたゾルトに撮影の準備を始めようと、サーカスの団員とともに案内された先で共演者を見て、ルカは驚く。
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▪ ユーリにゾルトとのことを云われてからすっかり不機嫌だったテディ。作業もあまり捗らず、やや不満は残っていたが、デモトラックはなんとか充分な数が仕上がった。ポートレイトの撮影もテディ以外は終了し、二日後にはここから引き揚げることに。
明日は一足先にゾルトが帰るということで、一同は夕食時、いつもより品数多めな料理とビールとワインで酒宴を開いていた。
荷物をまとめておきたいので、と先にゾルトが部屋に戻ったあと。ルカは、テディがなんだか蒼い顔をしていることに気がついた。無理にでも吐いたほうがいいとユーリがレストルームへ連れていこうとするが、テディはほっといて、とひとりで外に出ていってしまう。
ルカはユーリに自分に任せろと云い、テディの後を追った。
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▪ 中庭で吐いたあと部屋に戻ったテディ。ルカももう大丈夫かと隣の自分の部屋に入るが、壁の向こうから妙な音が聞こえたのが気にかかり、テディの部屋へ行く。
音は投げつけられたブレスレットが壁に当たり、繋いであった糸が切れて床に落ちた音だった。なにかを堪えているようにじっと立ち尽くしているテディに坐るよう促し、ルカも隣に腰掛けた。
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▪ なにも云わず、ただ黙ってルカが傍にいると、やがてテディが独り言のように話し始めた。ゾルトとやっとお別れだとせいせいする、あの人がいると自分はなんだかおかしい。さぼりたくてさぼっていたわけじゃない、本当に調子がでなかったのだと打ち明けるテディ。いてもいなくても変だし、なにもやってないのにやたらとハイだったりがっくりきたりで苦しい、もういやだ、つらいんだと。
涙を浮かべるテディに、ルカは優しく頷いた。自分にも憶えがある。気にかかってじっとしていられなかったり浮かれまくってたり、突然泣きたくなったりと一日中ずっと相手のことで頭のなかがいっぱいで、まるで自分が壊れたみたいだったと。でも、みんなそうなのだ、それが恋だとルカは云った。
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▪ 恋と聞き、テディはそんなのおかしいと否定する。自分がルカ以外に恋するなんてありえない、恋なんかじゃない、俺は恋してなんかいないと。ルカはそれも受け止め、ああそうだな恋じゃない、はしかだ、熱病みたいなものだと泣きじゃくるテディを宥める。
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▪ 夜中、ふと目覚めたルカは、聞こえてきたドアの音にテディが部屋を出たのだと察する。ドアを細く開けてそっと覗くと、思ったとおりテディは廊下の突き当りのゾルトの部屋の前にいた。
ノックに応えたゾルトとの会話を盗み聞きするルカ。テディはゾルトに、あんたは昔俺を買った大勢の男のなかのひとりに過ぎない、優しい善い人じゃ困るんだ、だからもう一度なんにも考えないで俺を抱いてと云った。ショックを受けるルカ。しかし、ここでテディを止めたら躰ではなく、心のほうを奪われたままになる気がした。
ドアが閉まる音を聞き、その場に頽れるルカ。
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クライ・ベイビー
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⚠ 以下、ネタバレ注意! ⚠
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▪ ゾルトが発つ朝。皆と順に挨拶を交わし、ルカの前にゾルトが来たとき。ルカは得意の営業スマイルでやり過ごそうと思っていたのにそれもできず、目を逸らしてしまう。だがゾルトは撮影時のことなどを話したあとルカにハグをし、「テディと末永く、幸せに」と耳打ちをしてくる。
まいった、とルカはハグを返し、この人でよかったと複雑な思いを押し流した。
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▪ そしてゾルトを見送ったあと。テディが最後に一曲仕上げたいと皆をスタジオに誘う。それは何度も試行錯誤を繰り返してきた、あのバラッドだった。
テディのアレンジでがらりと雰囲気を変え、いい感じに仕上がったその曲に歌詞をつけたルカは、おまえが歌えとノートをテディに渡す。テディも嫌とは云わず、切ないラヴソングを感情をこめて歌いあげた。
自分に歌わせるつもりで書いたのかとルカに尋ねるテディ。ルカは、そうではないとごまかした。ごめん、と口にしかけて愛してると云い直したテディに、当然だと返すルカ。
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▪ 曲作りもなんとか終了し、ようやくプラハへ帰る日。忘れ物がないかチェックしてまわったブルーノが、屑籠に入っていたものを棄てていいのかとテディに尋ねる。ルカはブレスレットのことかと察したが、テディはいいんだ、と答えた。
だが、迎えの車が来てイェリネク夫妻に挨拶をしていたとき。夫人が生糸でとりあえず繋いでおいたとブレスレットをテディに渡す。素敵なブレスレットね、大切にねと云われ、思わず泣きそうな表情になったテディに、ルカは笑みを浮かべて肯いてみせた。
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▪ 半年後。無事にリリースされたアルバムのプロモーションで忙しい日々。今回はほぼ同時期に発売されたゾルトのポートレイトブックも、アルバムの売上に大きく影響していた。
なかでもSNSを沸かせていたのは、テディの写真であった。ルカはページを捲り、美しいテディの写真を眺めながら思った――これはやはりあのとき、ゾルトの部屋で撮ったものなのだろうが、事前か事後のどちらだろう、と。
再びもやもやした気分に陥ったルカは、テディに呼ばれ、ロンドンでのTV出演のため事務所を出て下で待っている車に向かった。その途中、階段で立ち止まり、ずっと保留にされている結婚の話をテディにする。
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▪まだその気にはなれないか? と消極的なプロポーズに自ら呆れる。じっと自分の顔を見つめているテディに、なんと答えれば自分が傷つかないか考えているのだろうと思い、いや、いいんだとまた階段を降り始めるが――いいよと答えたテディに「なんだって?」と聞き返し、暫し押し問答のようにしてイエスの答えを理解する。
うおおぉ! と雄叫びを響かせ、外へ飛びだしたルカは、待っていたロニーに「結婚する! やっとテディと結婚するんだ!!」と喜びの報告をした。停まっていたバンのウィンドウが開き、ドリュー、ジェシ、ユーリの三人が祝福の言葉を浴びせる。
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▪ルカはあらためて、これが最終テイクだというように永遠の愛を誓う言葉をテディに告げた。
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