第47話 真実と嘘(4)

 エルフの降臨。


 天上に住まうエルフが金色の聖女を迎え入れるために存在その帝都に存在する大きな広場にある祭壇は人々で埋め尽くされていた。

 100年に一度、エルフ達は金色の聖女を妻に迎え入れるために、天から舞い降りる。


 そして。今日。彼らは天界より下界に舞い降りる。


 集まった人々が空を見上げる中、それは現れた。

 空に巨大な魔方陣が現れ、光り輝くと、ペガサスにのったエルフが先陣を切り、神々しいローブを身にまとった魔導士たち、光り輝く法衣を身にまとった神官、そしてペガサスにのった騎士たちに連れられ、金色の馬にのったエルフの王子が現れ、大歓声が沸き起こる。


 ――ああ、素晴らしい。

 これこそ私のために用意された晴れ舞台だわ――


 エルフを迎え入れる祭壇の控えでその姿を見ていたシャルネは目を輝かせる。


 エルフ達がシャルネを迎え入れるために最高の舞台を用意してくれた。


 このあと金色の祭壇の一番目立つところに白銀の聖女のエスコートで行き、金色の聖女の力で金色にの聖杯に酒を具現化。その聖杯に沸いた神酒をエルフの王子と二人で飲み、婚姻を誓いエルフたちの神聖力で宙を舞い空に連れられて行く。


 その荘厳な光景にだれもが歓喜することだろう。


 だがその前にやらないといけない事がある。

 シャルネをエスコートすることになっているセシリアだ。

 

 シャルネの美しい白いウェディングドレスを引き立たせるように地味な黒い服を着てベールをかぶったセシリアに目を向ける。


 白銀の聖女は金色の聖杯をともに祭壇に運ぶ役目がある。

 エルフの皇子が降りてきたところで、金色の力を発動させる予定だろうが……そうはさせない。

 祭壇に上り、エルフたちが空を舞い降臨の儀式で皆の視線が向いているときがチャンスだ。

 まさかセシリアもそのような場所でシャルネが仕掛けてくるとは思わないだろう。


 シャルネは赤い宝石を飲み込んだ。

 あとは祭壇にあがり視線がエルフたちの華麗な舞に向いている時にセシリアから金色の聖女の力を奪い、金色の聖女の力を使ってセシリアはマヒさせておけばいい。

 セシリアが動けるようになるころには、シャルネはエルフ達とともに天上だ。


 絶対にセシリアに邪魔などさせない。

 

(エルフの花嫁として歴史に名を残すのは私よ)


 ★★★


 胸が痛い……。


 レヴィンは襲ってきた激痛にただひたすら痛みに耐えていた。

 痛みの周期を計算等してみたが、痛みの来る時間はランダムで予測は不可能だった。

 それが故、この瞬間に痛みがこないようにと祈ったが、どうやら最悪の時間にきてしまったらしい。苦しくて、つい顔が歪む。

 エルフ達が現れて大歓声の上がる中、視線がみなエルフたちに集中し、黒いベールをかぶっている事が幸いした。

 今もし、顔を見られてしまったらディートヘルトあたりに無理やり医務室へと運ばれてしまっただろう。


 呼吸が乱れぬように、ただひたすら痛みに我慢する。


 ――あと少し、もう少しだ。


 勝負はシャルネが祭壇に上がったら。

 エルフの皇子が金色の聖女を祭壇の頂上に迎えにきたその瞬間。

 虚栄心の塊のあの女が皇子に迎え入れらえた幸せの絶頂からあの女を絶望の淵に叩き落とす。

 この大衆の前でなじられ、這いつくばる未来こそあの女にはふさわしい。


 ……だから。


 痛みで気を失いそうになる、気持ちを奮い立たせる。

 まるでそれに呼応するかのように、エルフの舞が終わり、金色の聖女が祭壇に上がるためのラッパが吹かれる。


 エルフの皇子を迎える祭壇は長い白い階段をあがった場所にある。

 金色の聖女と、聖杯をもった白銀の聖女がその祭壇にあがる手はずになっていた。


 シャルネの後に続いて一段、一段階段をあがっていく。


 階段を上り終わったところで、再びエルフたちの舞がはじまり、それが終わった時、エルフの皇子が金のペガサスに乗って金色の聖女を迎えにくるはずだ。


 シャルネがエルフの花嫁に向かい入れられ、勝ち誇ったその瞬間、地に堕としてやる。

 あの女が金色の聖女になったセシリアの喜びを、一瞬で奪い去ったように。


 ――彼女と同じ絶望を。そしてそれ以上の苦しみを――


 階段を上るのすら、激痛が走り、何度もよろけそうになるのを気力だけで足を進める。

 少しでもよろけるところを見せてしまえば、神殿の制止を振り切ってでもディートヘルトが迎えにきてしまうだろう。


(こんな所で、いままで用意したものを無駄にしてたまるか――)


 階段を上り切り、祭壇についたところで、セシリアは思わず息を吐く。

 なんとか無事に登り切った事に安堵した瞬間。

 シャルネとベール越しに目があった。


 その瞳に狂気をたたえたシャルネと。


「ここなら私が手出ししないとおもった?そういうところがあんたは甘いのよ」


 そう言ってシャルネがまるで労わる風を装って、セシリアて手をさしだした。


「――!?」


 避けようにももう身体が動かない。


 シャルネに手を握られた、その途端、レヴィンは激痛に意識を失った。






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