第36話 絆(1)

 裁判から三か月。

 枢機卿はあの裁判をきっかけに様々な悪事が明るみになり失脚した。

 そして、枢機卿の失脚と、金色の聖女と白銀の聖女の法廷闘争は瞬く間に噂が広まった。

 広がった噂の大部分は金色の聖女シャルネへの不信感。

 シャルネと懇意にしていた枢機卿が悪質な手段でセシリアを陥れようとした噂は、すでにセシリアの悪評が広まっていたおかげで、実はシャルネがセシリアを悪者にしていたのでは?と悪評で瞬く間に広まったのだ。

 セシリアの幼馴染を殺し、魔族召喚の汚名を着せて、セシリアを陥れようとした聖女シャルネ。

 自らは金色の聖女なの何もしないくせに世界に尽くすセシリアの功績をねたんで葬り去ろうとしたという憶測は、皆の興味を誘ったらしくレヴィンが手出ししなくても面白いように勝手に広がったのだ。


『いやぁ、自業自得とはこのことだね、

 君の狙い通りに物事が進んでるじゃないか

 偽金色の聖女の彼女、裁判後部屋にこもってヒステリックに部下に当たり散らしてるって噂だよ』


 自室できっちり鍵をかけ、どの角度で見せたら効果的に挑発できるか熱心に研究しているレヴィンにメフェストが話しかける。


『ああ、そうだな。セシリア様の悪評を世にばらまき、優越感に浸ってたあの女にはちょうどいい報いだ』


 と、答えるレヴィン。


『まさか、これで終わりにするつもりなの?』


『この程度で許すと思うか?

 これはまだ始まりにすぎない。

 まずは地位も名声も地に落とし屈辱を与え、権力という翼を全部むしり取る。

 あの女の最後は民衆に罵られながら惨たらしく死ぬのがふさわしい。それまで終わらせる気はない』


 セシリアがメフィストを睨むと


『そうこなくっちゃ♪』 


 嬉しそうに答えてメフィストはベッドに寝転がる。


『でもいいの。本来の君が魔族契約したのはまぎれもない事実になった。本当の君は犯罪者だ。

 商家はその罪を問われて、経営陣は牢屋行らしいじゃないか。

 君を信じてついてきた部下たちは君の個人的愛のために切り捨てられて可哀想だね』


『私の部下や従業員は別名義であの商家とか関係ない場所にとっくに移してある。

 あそこには残っていない。

 あの商家を仕切っているのは名目上の妻であり俺のパトロンの親族だ。

 私が死んだのを幸いと喜んで商家をのっとってくれたよ。裁かれるのはその親族連中になる』


『確か君のパトロンだった女性、親族大っ嫌いだったんだっけ?

 自分の死体を利用して、シャルネ達を陥れた上に、パトロンの敵までとっちゃうとか、怖いね。

 やることがエグイ』


『それ以上褒めるな。誉めても何もでないと何度言えばわかる』


『いや、だから誉めてないんだけど』


 薄目で突っ込んだあと、メフェストはしばらくレヴィンを見つめ


『に、しても僕たち一心同体なはずなのに君っていつも僕にだけ冷たいよね。

 もっと僕との絆も大事にするべきだと思うんだけど』


 ふてくされて言う。


『望みとあれば毎日耳元で愛の言葉をささやいてやろうか?もちろん魂の世界で、俺の姿でだが』


『うん、やっぱり気持ち悪いからいい♡』

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