第31話 神議会(2)
「で、セシリアはどうしました?」
大神殿の金色の聖女の部屋で枢機卿にシャルネが尋ねる。
「裁判に応じたそうです」
枢機卿が答えにやりと笑った。
「あら、意外。応じてくれなくてもよかったのに。
ゴルダール領に侵略する口実になったのに」
(そうしたらセシリアを戦場で事故を装って惨たらしく殺せたのに、忌々しい)
重要なのはゴルダール領の力をそぐことだ。
セシリアを罰すれば最初に民衆からの反発もあるだろうが、民衆の神殿やシャルネへの評価よりも問題はゴルダール領が神殿をしのぐ力をもってしまう事。
ゴルダール領は魔瘴核を壊してからというもの、次々と帝国と神殿の力の及ばない地域への交流を広め、勢力を拡大していった。そしてついにはエリクサーの作れるテーゼの花まで大量生産に乗り出したのである。
このまま手をこまねいていれば、神殿に反抗的なゴルダール領が神殿をしのぐ勢力になってしまうのはそう遠い未来ではない。
民衆の評価など、ゴルダール領を弱体化させてからまた、噂で評価をあげればいい。
だがゴルダール領は放っておけば取り返しがつかなくなる。
昔からゴルダール領は神殿の上層部に批判的で、放っておけば帝国や各国をまとめあげ、上層部の一新を要求してくるかもしれない。力をもつ前になんとしてもディートヘルトをつぶさないと。
それ故今回の裁判だ。
セシリアの身辺を洗ううち、レヴィンという商人が魔族契約をして死んだということがわかった。
調査では魔族契約の魔方陣はでたらめで、魔族を召喚できるものではなく、失敗してミイラ化して命を落としたとの報告を受けた。
だがシャルネはそれを利用し、その商人がセシリアに魔族の宿った宝石を渡したなどという罪をでっちあげたのである。
そしてその捏造証拠で裁判で有罪にする。
裁判で有罪判決がでれば、ディートヘルトが黙っていないだろう。
密偵の話ではディートヘルトはセシリアに恋慕の情を抱いているという情報もある。
有罪判決とともにディートヘルトが激高して抗議で剣を抜いてくれればそれを口実に殺すこともできるし、そこで思いとどまったとしても、セシリアの身柄さえ確保していれば使いようはいくらでもある。
煽って戦争にもちこめばいいだけだ。
いくらゴルダール領が強いといっても、まだ魔瘴核での戦闘で失った人的損失は埋められていない。
時間がすぎればすぎるだけ、ゴルダール領が新たな騎士を訓練し、人員を補充してしまい、神殿側が不利になる。
多少強引でも今のうち潰さなければいけない。
そしてセシリアとディートヘルトをつぶした後なら、いくらでもセシリアとディートヘルトの罪をでっちあげられる。
商人の契約した魔族とさらに取引をし、兵士たちを何百人も犠牲にして大規模な魔族とりひきをおこない、魔瘴核を壊させた。
そのせいで土地が不浄な魔力を帯びたなど、真実の中に嘘を混ぜ込んで捏造してしまえばいいだけだ。
「それにしても……神議長に教皇を指名してきた?」
伝令兵の報告にシャルネが目を細めた。
セシリアは教皇までは懐柔できていないことを見越しているのだろうか?
たしかに教皇はシャルネ達に懐疑的で考え方はゴルダール領に近いものはあるが、シャルネと枢機卿の神殿での力がつよく、ほとんどお飾りの教皇だ。彼が神議長でも問題にならないだろう。
商人が魔族契約をした証拠とそれをセシリアに渡した証拠。
使用人達が魔族に殺されたとすべての偽造の証拠は万全に用意してある。
「はい、しかも公開裁判を希望しております」
「皆に平民出の卑しい聖女と知らしめるにはいい機会だわ」
最近セシリアばかり人気が集まり、シャルネは何もしない聖女として名声が落ちつつある。
ここでセシリアが魔族を使って使用人を殺した事が世に広まるのは悪くない。
「ちゃんと、証拠や神議員の買収は完璧なのでしょうね?」
「はい。間違いありません」
枢機卿がにやりと笑う。
「楽しみだわ」
(牢に捕まえてしまえばこちらのもの。今度は惨たらしくいびってあげる、セシリア)
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