第25話 栄光と没落と(1)
「セシリアが……ゴルダール地方の魔瘴を浄化した……?」
大神殿の豪華な『金色の聖女』の部屋で、呆然とシャルネが枢機卿に聞き返した。
「……はい。到着したその日に、魔瘴を振り払ったと」
冷や汗をかきながら枢機卿がシャルネに報告する。
「あの女はゴルダール騎士団の不備で死ぬはずだった!!
ランベールは何をやっているのです!?
一体何故そのような事になっているの!?」
思わず取り乱してシャルネが枢機卿に問い詰めた。
「それが……、セシリアが予想以上に強く、ランベールが失敗したところ騎士団が到着してしまったようです。
ゴルダール領からランベールが聖女を切りつけた証拠が送られてきました。
……そしてその証拠の中に、我らに対して警告するような証拠も添えられていました。
おそらく、私達がこの件でディートヘルトたちを罰するつもりなら、私たちがランベールに関わっていることをバラすという警告です」
「……そんな」
思わず、ぼすんっとその場でソファに座り込む。
違う。こんなはずではなかった。
ランベールがセシリアを殺し、ディートヘルトに聖女護衛を怠ったと罪を着せるつもりだったのに。
何故セシリアが魔瘴を払うなどという偉業をなしとげているのか。
魔瘴を取り払うなど伝説の『金色の聖女』以外できないはずだ。
そしてなぜ『金色の聖女』が白銀の聖女と違い褒めたたえられるかといえば、魔瘴を振り払うことができる唯一無二の存在だったからだ。
白銀の聖女セシリアがその偉業を成し遂げてしまったら、シャルネの存在など一気に地に落ちる。
「セシリアに『金色の聖女』の力が残っていたというの!?」
「あ、ありえません!?力は全てシャルネ様の白銀の聖女の力と入れ替えたはずです!
おそらくですが……入れ替えたあと彼女自身が生み出した新たな『金色の聖女』の力とシャルネ様のもっていた白銀の聖女の力が混ざったため破壊できた……これくらいしか説明できができません」
「どうするの!?
世間一般はセシリアに『金色の聖女』の力があるのは知らないわ!
白銀の聖女でも魔瘴を壊せるなんて噂が広まってしまったら私の権威が!」
「落ち着いてください!シャルネ様!
いくらあがこうと、エルフの嫁に迎え入れられるのは『金色の聖女』です。
エルフたちが貴方様を迎え入れる光景を見れば、誰しも貴方が『金色の聖女』だと褒め称えるでしょう」
「……そうね。まだ慌てるにははやいわ。
それにしても……記憶をなくしたからと甘く見すぎていたわ。
むしろ記憶をなくしてからのセシリアの方が厄介すぎる。……枢機卿」
「はっ」
「あの子の男関係を調べなさいっ!!
孤児だった時代に懇意にしていた男が商人として我が家に来ていたわ。
あの男とのスキャンダルをでっちあげるもの一つの手よ。
セシリアの評価をもう一度地に落としてみせる」
がりっと爪を噛みながらシャルネが告げる。
セシリアが記憶をなくしてから、全面的にシャルネに味方していたはずも公爵の兄さえ、シャルネと距離をとりはじめた。セシリアの件でシャルネを疑っている節すらある。
さらにはゴルダール領で殺すはずが、とんでもない名声を得てしまった。
はやくあの平民の血が混ざった一族の恥さらしの名声を地に落さないと。
はじめてセシリアがルーゼント家に来た時の事が思い出せる。
父がお前たちの兄妹だと連れてきたとき、その時の母の表情を今でも忘れられない。
忌まわしき平民の血のはいった下賤な娘。
母はセシリアをいびり、父はそんな母に嫌悪感をもつようになり母は遠くの離れに追いやられた。
その時シャルネのもった感想は「母は愚かだ。」それだけだった。
あのように父が溺愛している状態の娘を虐めれば、愛を失うことくらいわからないのかと妙に冷めた目で見ていたのを今でも覚えている。
セシリアを虐げたければもっと周りを懐柔し、セシリア自身に嫌悪感を抱かせてからだ。
シャルネならもっとうまくやれる。
その時の恍惚とした気分を今でも忘れられない。
母親ができなかったことをやり遂げる。
そこからシャルネの陰湿なセシリアを孤立させる作戦がはじまった。
兄や使用人たちを洗脳に成功した。
父親は不運にも事故死してしまい洗脳できなかったが、死んだことで誰も邪魔をしなくなった。
父親が死んで必死にルーゼント家に縋り付いたセシリア自身をも洗脳して、シャルネの気の向くままに虐げられるお人形さんにしたはずなのに。
金色の聖女だった場合力を奪ため生かしてあげただけの、壊れかけの人形の分際で。
何故ここにきて急に私がセシリアの手玉にとられないといけないの!?
(絶対許さない、見ていなさい、セシリア)
シャルネはガリっと親指の爪を噛むのだった。
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