無精髭の男

ピーコ

無精髭の男

7月に入り蒸し暑い日が続いている。夜の23時、私は夫と喧嘩をして家を飛び出した。


慌てて出てきたし財布も持ってない。行くとこもないし。あー、どうしよう。


しばらく歩くと公園があった。公園には、ギターの弾き語りをする男の人がいた。周りには誰もいない。


「こんばんは。」その人が声をかけてきた。年は、40代半ばから後半といったところだろうか。


伸びかけの髪の毛に、無精髭、背は高くヒョロっとしている。白のTシャツにGパン、足元はサンダル。よく見るとイケメンかもしれない。


私は、「こんばんは」と答えた。


その人は、私の好きな歌手の歌を歌った。低音のハスキーボイスだ。声好きかも。私は、しばらく彼の歌声に酔いしれていた。


何曲か歌い終わるとその人が、また話しかけてきた。


「こんな時間に何してるの?行くとこないの?」


私は、「うん」とうなづいた。


「俺ん家来る?」その人は言った。私は家にスマホを置いてきた。


出て行けって言ったあの人が悪いんだ。結婚して20年。いろいろあった。子供は大学生の息子が1人。遠くの大学の為、寮に入ってる。


息子が家にいなくなり、夫婦2人の生活は息苦しかった。無口だが、小言の多い夫。コロナが流行り出してから夫は、完全に在宅ワークになった。


息が詰まる。専業主婦の私は、こんな生活に飽き飽きしていた。長いこと、友人にも会っていない。夫が働いているのに自分だけ遊びに行くのは気がひけるのだ。


これは、神様のプレゼントかもしれない。私は、その人の家についていった。古いアパートだった。


「ご家族は?」私が聞くと、その人は「去年、長年連れ添った嫁と別れた。最近、職を失って、休職中なんだ。」その人は、なんだか寂しそうに見えた。


その人が言った。「シャワー使っていいよ。洗面所のタオル使っていいから。あと、一応、洗濯してあるから、これ着ていいよ。」と言うと男物のTシャツと短パンを貸してくれた。


私は、シャワーを浴び、体を拭き、洗面所から、「ドライヤーお借りしまーす」と声をかけた。こんなんだったら着替え持ってきたらよかった。


私は、借りた服を着て、部屋に戻ると、「俺もシャワー浴びてくるね」とその人が言った。


シャワーの音。私は、ドキドキした。どうしてついてきてしまったんだろう。罪悪感が、ないわけじゃなかった。


ドライヤーで髪を乾かす音。私の鼓動は早くなった。今なら、まだ帰れる。どうしよう。


「帰る?どうする?」その人が聞いてきた。

私は迷った。「泊まってく。」私の何かが壊れた瞬間だった。


「布団1つしかないけど?一緒に寝る?」

背中合わせで寝た。その人の体温を肌で

感じた。人の体温を感じるのって何年ぶりだろう。しばらくすると「寝れない」とその人がつぶやた。


「私も寝れないです。」お互い向き合うように体勢を変えた。その人は、私を強く抱きしめた。そして、目が合うと優しくキスをしてきた。私もそれに応えた。


徐々にキスが激しくなっていく。お互いの息遣いが荒くなっていく。彼の手が、私を求めてきた。私は受けいれた。


「最後までしていいの?」彼が聞いてきた。私は、「うん」と答えた。彼のものが私の中に入ってきた。私は、大きく声を出した。


彼もそれに応えるように腰を動かした。お互い果てて、裸のまま眠った。


朝、目覚めると、私は、急いで服を着替えて、その人の家を出た。


今日は、土曜日、家に帰ると、夫は、寝ていた。


その後、起きてきて「どこに行ってたんだ?」と聞いてきた。「知り合いのとこ」そう答えると「ふーん」とそっけない返事をした。


私のことなんて、大して興味ないのだ。


次は、いつ喧嘩しようかな。私の中のもう1人の自分が心の中で、つぶやいた。





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無精髭の男 ピーコ @maki0830

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