後天性プリンセス

折野花威(俺のハニー)

Episode1, 一目惚れ

 私が高校一年生のとき、一目惚れをした。

 入学してすぐだった。何かの用事で私のクラスに来た男子に、私は目を釘付けにされた。

 背が高くて、手足が長くて、細身だけど筋肉質な感じが服を着てても伝わってくる、そんな顔つき。薄い唇、凛々しい眉毛、長くて濃い睫毛。骨張った手、スラッと長い指、そんな綺麗な手で書かれた君の文字は、あんまり綺麗じゃなかったけど、それはそれで愛おしく感じたなあ。廊下に張り出される作文は、張り出される度に彼のものを探した。無難な内容ばかり書く君が、好きだった。友達と談笑しているときの君のくしゃっと笑う表情も、一人で歩いているときの涼しげな目元も、全部、全部好きだったんだよ。


 まるでストーカーみたいな事をここまでツラツラと書いてきたが、実際、彼とは話したことがなかった。だから、あの時は声すら聞いた事がなかったのだ。ただ、彼が教室の扉の前を通った時は絶対に気付いていたし、顔が判別できないぐらい遠くにいても、背格好で彼と特定できるぐらい好きだったため、彼について異様に詳しくなってしまったのである。あーあ、ホント、SNSしてないところも好きだったなあ。そんな頃の、どうにか彼にお近づきになろうと頑張っていた私の話でもしようか。


 彼は、中学時代、結構有名な野球プレーヤーだったらしい。私と同じクラスの、後ろの席の男子が言っていた。その男子の名前は原くんという。私が灰田だから、出席番号順で前後なのだ。原くんは何にでも詳しい子だった。私が好きな彼……清水くんは高校でも野球部に入るらしいことも、うちの高校では大きな大会の時は吹奏楽部が応援に行けることも、教えてくれたのは原くんだった。私は、清水くんと会話できるかもと思い、中学時代は水泳部だったが、初心者として吹奏楽部に入部することにした。原くんは「水部すいぶ吹部すいぶで、実質経験者やなあ。」などと茶化してきたが、原くんの方こそバリバリの吹奏楽経験者で、コントラバスを担当していた。これを知ったときに私は、彼は私を勧誘するために大会の応援の話をしたのだと気付いた。まんまと乗せられたが、悪い気はしなかった。


つづく

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後天性プリンセス 折野花威(俺のハニー) @oreno821

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